「レバレジスト」とはレバレッジ投資家の意味で言っています。
元は「スバリスト」から来ています。私は未だBP型(4代目)の「レガシィツーリングワゴン」に乗っています(いいクルマだから乗っているだけで特に熱心なファンというわけではないですが)。雪山への相棒として走り続けてくれていることに感謝しています。
さて余談はこれくらいにして、「ファンドオブザイヤー2019」で上位に位置していたレバレッジバランスファンド「グローバル3倍3分法ファンド」について考察してみました。「新型コロナウイルス」による自粛で春コブが滑れず時間ができたためです。
【イントロダクション】
インデックス投資界隈において「レバレッジ」という言葉には2種類あるように思います。
①日々の「変化率」にゲインをかけるレバレッジ・インバースインデックス(いわゆるブル・ベア型)
②証拠金により「資産(分母)」にゲインをかけるレバレッジ運用
このファンドは後者に該当すると思います。
まず、①の変化率のレバレッジは上下変動がある時に相乗平均の減価を増幅させる(「変化率レバレッジ」と定義)のですが、②の資産にレバレッジをかけるケースは変化率自体は同じなので変動による減価の程度はレバレッジ前と変わらない(「純資産レバレッジ」と定義)、という理解で合っていますか?
このファンドはSN比(シグナルノイズ比)の高いグローバル債券の比率を大きくしてバランスファンド全体の効率を上げつつ、レバレッジにより高いリターンを確保していると理解しました。
【定量化】
実際のファンドは株式20%、REIT13.3%、債券66.7%ですが、簡単のためグロ株33.3%(x3=100%)、グロ債66.7%(x3=200%)で考えます。なお以下は統計的な特性の考察であり、レバレッジ・先物取引関係のコスト、ファンドコスト、積立などは考慮されていません。
myINDEXさんの情報(2020/4/E)から各資産の統計量を求めると以下になります(相関係数はmyINDEXさんの合成リスク計算と自分の手計算との比較で推定しています)。
20年 |
相加平均 |
相乗平均 |
シグマ |
S/N(相乗平均) |
配分 |
グロ株 |
6.7% |
4.9% |
19.1% |
0.26 |
33.3% |
グロ債 |
5.8% |
5.4% |
9.4% |
0.57 |
66.7% |
相関係数 |
|
|
0.55 |
|
|
合成後 |
6.1% |
5.5% |
11.1% |
0.50 |
|
純資産レバレッジ |
11.0% |
8.9% |
20.5% |
0.44 |
(3倍) |
変化率レバレッジ |
19.1% |
13.5% |
33.3% |
0.41 |
(3倍) |
※「コロナ」後のデータのためか株式の方が相乗平均が小さくなっている点はご承知ください。
基準価額の考え方としては、指数の変化率はそのままに3倍の資産で運用した場合の「変化量」が1倍の資産に足される、という理解でよいでしょうか(純資産レバレッジ)。純資産レバレッジは日々の変動後の資産をその都度3倍にする(変化率レバレッジ)のではなく、最初のみ3倍にして変化量を求めています。また流出入は無しとしています。
そうすると、ゲイン1倍のポートフォリオを自分で3倍の資金で運用するのと損益の「額」自体は同じになる(証拠金部分やファンドコスト、先物取引にかかるコストなどは除く)と思いますが、合っていますか?
つまり投資額が同じだと収益額を3倍にできる、つまり元本が少なくてもリターンを大きくできる。その代わり日々の変動は大きくなる。上の表のように、レバレッジをかけると相乗平均は大きくなりますが当然シグマも大きくなっています。
いくつかの例で基準価額の変化をシミュレーションしておきたいと思います。ここではレバレッジインデックスのように変化率を3倍する場合や基準ポートフォリオを投資額3倍で運用する場合も併記しています。
【相乗平均5.5%、シグマ11.1%、レバレッジ3倍】※上の20年データ
期間が浅いと純資産レバレッジと変化率レバレッジは同じくらいですが、変化率レバレッジは後からブーストがかかります(レバレッジと複利による加速)。このSNだとシグマによる減価増幅を押しのけて複利のエクスポネンシャルが顕在化するようです。
【相乗平均2.0%、シグマ15.0%、レバレッジ3倍】※SNを悪くしてみる
20年 |
相加平均 |
相乗平均 |
シグマ |
S/N(相乗平均) |
配分 |
合成後 |
3.1% |
2.0% |
15.0% |
0.13 |
|
純資産レバレッジ |
11.0% |
4.2% |
37.0% |
0.11 |
(3倍) |
変化率レバレッジ |
9.7% |
-0.4% |
45.0% |
-0.01 |
(3倍) |
変化率レバレッジだとシグマによる相乗平均の減価が大きくなり長期的にマイナスになる領域に入っています。
【相乗平均2.3%、シグマ11.1%、レバレッジ5倍】※レバ5倍で相乗平均がほぼ1になる時
20年 |
相加平均 |
相乗平均 |
シグマ |
S/N(相乗平均) |
配分 |
合成後 |
2.9% |
2.3% |
11.1% |
0.21 |
|
純資産レバレッジ |
13.6% |
6.1% |
38.7% |
0.16 |
(5倍) |
変化率レバレッジ |
15.6% |
0.1% |
55.5% |
0.00 |
(5倍) |
レバレッジ5倍の場合は上記をしきい値としてリターンが大きいかシグマが小さくないと危険なことを示しています。
もう一つ別に、実ファンドを用いた確認もしておきます。イーマクシススリムのグロ株とグロ債の基準価額を元に300%(3倍ゲイン)で運用した場合のsimです。
いくつかポートフォリオの作り方を変えています。リファレンスとしてグロ株33.3%、グロ債66.7%で1倍(リバランス有り無し)、それぞれ3倍で最初だけ純資産3倍(リバランス無し)、それぞれ3倍で日々の純資産を3倍(リバランス有り無し)。
さらにグロ株を現物、グロ債だけ先物でレバレッジをかけるケースを想定し、グロ株80%x1倍、グロ債20%x11倍の計300%(リバランス有り)も求めています。
【基準価額によるsim(2017/02/27-2020/05/29)】
確かにグロ株:グロ債=1:2で合成したくらいのリターンになっていますね。だいたい1倍ポートフォリオの3倍の振幅を持っていることがわかります。
実ゲインを確認するため、ゲイン1倍リバランスあり品(マゼンタ)を基準に騰落率(±〇〇%)の比を取ったプロットを示します。
【ゲイン比(2017/02/27-2020/05/29)】
以下は、一方的に変化する際の複利の振る舞いを見るため開始点を2019/01/04にずらしたものです(計算の原点も更新)。
【基準価額によるsim(2019/01/04-2020/05/29)】
【ゲイン比(2019/01/04-2020/05/29)】
考察については後述します。
【考察】
実際の運用においては、指数上昇や資金流入による純資産の増大に対してどのタイミング(頻度)で3倍のレバレッジをかけるかがポイントになるでしょうか。
というのは、レバレッジをかける純資産を更新しないと、純資産が大きくなってきたときに日々の変動量が純資産に対して相対的に小さくなってくるので資産全体に対する変動率は小さくなっていきます(実効的なレバレッジが小さくなっていく)。また実際のファンドでは日々の流出入もファンドに組み入れないといけないと思います。
それはつまりレバレッジをかける純資産を適宜更新する必要があると思うのですが、例えば毎日純資産の3倍に更新し直すことをやっていると、それこそ「レバレッジインデックス」と同じ現象が発生すると思うのですが合っていますか?(指数の"変化率"を3倍にするのと等価ではないか?)
すなわち、変化率にゲインをかけることによる、「A:一方的に上昇・下落する場合に2日以上離れた日との比較ではn倍にならない(複利により上昇・下落が加速される)」とか、「B:元の指数が上昇・下落を繰り返しながら元の水準に戻っても基準価額は元に戻らない(レバレッジにより減価が増幅される)」がレバレッジバランスファンドでも起こらないか(上で「変化率レバレッジ」と書いたパターン)。
その辺りどうなんでしょう?実際のファンドでは現実的には先物に合わせて1ヶ月単位くらいで純資産をn倍するのでしょうか?
仮に毎日の純資産のn倍にしているとすると、レバレッジインデックスと同じ考え方が適用できるのではないかと考えます。
例えば上記の「B」を定量的に考えてみます。シグマによるリターンの消失の式は、
g=r-(σ^2)/2
ここでg:相乗平均、r:相加平均、σ:標準偏差。レバレッジ(a)をかけると、r→ar、σ→aσより、
g’=ar-((aσ)^2)/2
=ar-(a^2)(σ^2)/2
=a[r-a(σ^2)/2]
相加平均がレバレッジにより「a」倍になるのに対してシグマによる減価は「a^2」倍のオーダーで増大するのがミソです。例えば相加平均3%、シグマ20%の資産だと相乗平均は3-2=1でプラスだが2倍かけると6-8=-2でマイナス。
つまりレバレッジをかけると相乗平均は単純な「a」倍にはならず、相乗平均とシグマの比で見たときの効率(SN比。金融業界で言うシャープレシオ)は落ちることになります(指数が元に戻ってもレバレッジ品は下落する理由)。逆に元のrとσの比が高いほどレバレッジをかけたときの減価に対する耐性は高くなると考えられます。
したがって設計においては相加平均がa倍で増加するのとa^2倍で減価するのとのトレードオフで最適な落としどころ(1倍のアセットアロケーションと統計特性、レバレッジ)を見極めることになるのかと思います。
なお、数学的には例えば上式の相乗平均が正になる時のSN比やレバレッジの範囲が求まるのですが、上記の1次の近似だとSNの値によっては精度が出ないことを確認しているのでここでは参考程度にしてください(レバレッジがない場合は良い近似です。近似の次数を上げた高精度化は関連記事を参照ください)。
実際の運用では純資産のレバレッジの更新頻度が中間くらいだとすると、投資成果も上のグラフの「純資産レバレッジ」と「変化率レバレッジ」の間くらいになる感じでしょうか。また現実には日々の純資産の流出入もあるので単純にはいかないかと思います。
このファンドは、あくまでポートフォリオのSNを良くしてシグマによるリターンの減価をなるべく小さくしているだけで、レバレッジをかけた時に数学的に発生する「レバレッジによるリターンの減価の増幅(上記の「B」)」が抑えられるような運用をしているわけではないと理解していますが合っていますか?(それは原理的に対処できるものなのでしょうか?)
グロ債のSNが良すぎて無視できるかバランス型で他の資産も混ざってよくわからん、ということですかね。投資信託説明書には記載がないので杞憂なのかもしれませんが、このあたりの定量的な話について誰か運用会社さんに突撃してもらえないでしょうか?
次にスリムを用いたグラフを見てみます。
特徴としては「コロナ」後の戻り方を見るとリバランスの有無で戻りに大きな差が出ています。リバランスしない場合はグロ株が「下落×レバレッジ」のダメージを受けて純資産が小さくなっているのでその後の上昇でも増加分が小さい。リバランスする場合はほとんどダメージを受けていないグロ債からグロ株に資金が供給されるのでグロ株の爆上げに乗せられる。
レバレッジは指数が一方的に変化する場合はそのゲインと複利(指数関数)により変動を加速させます(上記の「A」)。それを適宜リバランスで変動の少ないグロ債でならしてあげることで、上昇・下落双方において変動の大きい資産のレバレッジ加速を緩和しているように理解されます(バランス型の緩衝効果が変動やそれによる減価をうまくキャンセルしているイメージ)。
おそらくリバランスと上記の「A」の加速は排他ではなく同時に起こりうるものと思われます(バランス型でも複利によるレバレッジ加速の恩恵に与れる)。リバランスにより爆上げ時の加速は弱まるセンスですが、資産運用では下落の程度を抑えることの方が重要と考えます。
これらは資産配分を所定値に維持する「リバランス」という行為の意味と利点がよく発揮されている例だと感じました。
さらに、開始点を2019年1月にしたグラフがわかりやすいです。指数が一方的に上がっているときは「レバレッジ+ノンリバランス(青)」の上昇が大きいが、「コロナ」による下落も大きい。一方「レバレッジ+リバランス(赤)」の場合は上昇は少し抑えられるが「コロナ」とその後の戻りが速い。
リバランスを数学的に記述するのは難しいんですが、数値計算的に確認すると以上のようになります。なんとなく「リバランスボーナス」と表現されるバランス型の効能がレバレッジと絡んでいるような気がしますが、それらの関連や定量的な考察は未定です。
次に複利とレバレッジの関係をもう少し見てみます。
「ゲイン比」のグラフにおいて、指数が一方的に上昇する場面では、ゲイン3倍品(赤など)の騰落率比は上昇し3倍を超えます。逆に「コロナショック」などの下落があると騰落率比も下落し3倍を割り込みます。これらがレバレッジによる複利の加速と思われます(上記の「A」)。
そして、全体的に右上がりの中でも全体として3倍を切っているように見えます。これが、上下変動(シグマ)による相乗平均の減価がレバレッジで増幅された結果(上記の「B」)ではないかと考えています。
なお、初回だけ純資産3倍リバランスなし(緑)はほぼ3倍を維持しています(1倍リバランスなし品を基準にすると完全に3倍)。これは変化率レバレッジではないため、1倍品と同等のシグマ減価になっていると考えられます。
減価はゲインの自乗で効いてくるので、例えば全体として3倍にするのでも、株式と債券に等しく3倍ゲインをかけるのと、株式は抑えてシグマの相対的に小さい債券により高いゲインをかけるのとでは、それぞれのSNと相関特性で最適解は変わってくるような気がしますが、私のsim上はその差は出ませんでした(例えばグロ株33.3%x3倍、グロ債66.7%x3倍とグロ株80%x1.25倍、グロ債20%x10倍は一致した)。
なおグロ株80%x1倍、グロ債20%x11倍のsimはグロ株が100%でない分、結果も控えめになっています(「コロナ」後は相対的にダメージが小さいためか他と同等になっています)。
実運用では統計特性以外にレバレッジや先物取引関係のファクターが入るはずなので、資産配分やゲイン配分などの全体の最適化は運用会社の腕の見せどころということでしょうか。
【まとめ】
私はこのファンドを「Fund of the Year 2019」の発表で初めて知りましたが、なかなか成績好調のようです。「コロナショック」でレバレッジ分のダメージは受けているようですが。
このファンドのキモは、
①バランス型によるミーンバリアンス(誤差伝搬と相関によるシグマ低減)でSN改善
②その中でも特にグロ債のSNがいいこと
③レバレッジによりSNのいいグロ債のウェイトを支配的にする
④バランス型による「リバランス」で資産間の相互補完
「債券」や「バランス型」はインデックス投資ではよく「いるいらない」の議論を聞きますが、定量統計的な観点からはこの二つが実際いい仕事をしているようです(グロ債不要論とかバランス型不要論とは何だったのか)。
ぶっちゃけてしまえば、”期待リターンは高くてもリスクも大きい資産”を無理に組み入れる必要はなく、”SNのいい資産にリスク同等までレバレッジをかけてより高いリターンを実現”する方が効率がいいということなんでしょう。
大事なのは「レバレッジ後も相乗平均がプラスかどうか」ですので、シグマによる減価が目立って悪さをしない範囲のSN比とレバレッジの関係を長期的に維持できるならば、資産運用として強力なツールとなりうると思われます。右上がりを仮定する国際分散インデックス投資において「レバレッジ」はある意味相性がいいのかもしれません。
すなわち、レバレッジバランスファンドは冒頭の写真のように「レバレッジで掘られた深いコブ(ボラティリティ)をヒザの吸収動作(分散投資とリバランス)でアグレッシブに攻めるモーグラー」と言えるでしょう。
今のところはシグマによる減価やレバレッジ&先物取引関係のコストなどの影響よりパフォーマンスの方がよいようです。運用管理費用も0.36+0.08%(税抜)と高くありません。
懸念として、現物より大きな資産を扱う以上、例えば3倍ならポートフォリオが短期的に1/3→-33.3%の変動をしたら基準価額がゼロになってしまうのでしょうか?まあそれも「分散」していればすべてが同時にゼロになることはない、ということでしょうか。
長期的にはグローバル債券が不得意な場面(金利の上昇や為替変動)での振る舞いや、実質コストの影響など、着目してみたいところです。
個人的な感覚としては、ポートフォリオ(1倍時)のリスクは控えめでレバレッジ(ターボ)で要所を補完する、スバルの「レヴォーグ」などで採用されているいわゆる「ダウンサイジングターボ」のイメージです。ただ、レヴォーグはMTがないので選択肢から外れます。
しかし、レバレッジバランスファンドは運用も指数が主体のようなのでインデックス投資家として選択肢になりうります。あなたはレバレジストになりますか?
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