【下落(変動)でロスした分を上昇に使えたら(日経平均株価、しきい値:-5%)】
市場が「効率的」なら、同じ値を維持するのに無駄な変動でロスすることを極力避けると思うんです。インデックス投資がコストによるロスを回避するのと同じ理屈のはずです。
【考え方】
例えば指数が5%下落して元の値に戻るためには5.26%(=1/0.95)のリターンが必要です。ただ元に戻るためだけでおよそ0.26%余分な上昇エネルギーが必要になる(しかも1回あたりで)。0.26%って最近のインデックスファンドの年間コストに近い水準ですよね。
それなら最初から下がらなければ無駄にエネルギーを消費することもないし、そのエネルギーを指数の上昇に振り向ければいいんじゃないの?そういうのを「効率的」と言うんじゃないの?というのがかねてからの私の疑問です。
代表的な日経平均株価(1984/01/04-2016/11/11)を参考に、例えば「-5%」の時に失われる超過リターンを指数に仮想的に乗算します。つまり、
1/(1-0.05)=1/0.95=1.0526・・・
→5%下落した後に元に戻るために必要なリターン(5%より大きいのがポイント)
1.0526・・・/(1+0.05)=1.0526・・・/1.05=1.0025・・・
→余分に必要なリターン
この「余分に必要なリターン」を指数に掛け算で補うと元の指数がどうなるかという検討です(マイナス方向の変化率を全幅でキャンセルするのではなく、プラスマイナスの非対称性の超過分のみを補正)。変動が長期的にどれくらいのロスとして見えてくるかを視覚化することが目的です。
しきい値を「-5%」として、それを超える下落率の場合のみにその時の下落率における過剰リターンの割り戻しを実施したのが冒頭のプロットです。
以下は、しきい値を「0%」とした場合のプロットです(マイナスの時は常に補正)。
【下落(変動)でロスした分を上昇に使えたら(日経平均株価、しきい値:0%)】
【パラメータテーブル(年率換算)】
|
相加平均 |
相乗平均 |
標準偏差 |
「-(σ^2)/2」 |
しきい値-5% |
4.9% |
2.3% |
22.6% |
-2.5% |
しきい値0% |
7.0% |
4.4% |
22.4% |
-2.5% |
「(σ^2)/2」 |
7.1% |
4.3% |
22.8% |
-2.6% |
日経平均株価 |
4.3% |
1.7% |
22.8% |
-2.6% |
【考察】
「-5%」を超えてまたすぐに戻るような一過性の変動を無くすだけで、日経平均株価(Price指数)は2万円を超えていたようです。日経平均株価との相乗平均の差(2.3-1.7=0.6%)を見てもインデックスファンドの運用管理費用を超過しています。市場がいかに無駄にロスを積み重ねて自分で自分の足を引っ張っているかよくわかる事例だと思います。
何をもって市場が「効率的」なのかわからなくなります。インデックス投資(パッシブ投資)はコストに代表されるようにこういうムダを嫌うはずなのに、非効率な市場に対しては市場平均として無為にトレースするあたりにロジックの齟齬を感じます。
また「(σ^2)/2」のラベルで示したラインは指数の標準偏差(シグマ)から算出した消失リターン「-(σ^2)/2」を用いて指数を補正したものです。対して、しきい値をゼロにして全てのマイナスにおけるロスをキャンセルすると、消失リターン「-(σ^2)/2」による結果とよく一致することが確認できます。
このとき日経平均株価との相乗平均の差は4.4-1.7=2.7%にもなり、コストのキャンセルどころか高配当指数の配当利回りにも匹敵する水準です。その結果、指数は直近で「バブル」をも超えていたようです。また、その場合の相乗平均が元の日経平均株価の相加平均と略同等であることも確認できます。
この「ロスト・リターン」の考え方を標準偏差(シグマ)という一般的な統計指標を変数として定式化したのが私の言う消失リターンまたはハイリスク・ローリターンの法則「-(σ^2)/2」であり、対数正規分布の定義にあるように平均値(相加平均)と中央値(相乗平均)とを関連付ける重要なパラメータと認識しています。
【まとめ】
指数関数(複利、対数正規分布)であるインデックス投資において、リターンはプラスマイナスに非対称であり、マイナスはロスをエンハンスするものであり、「マイナスサムゲーム」の要因の一つと考えています。
指数が上がらなくて困るなら、市場はまず節操のない過剰反応で衝動的な下落を繰り返すことを自重することから始めれば良いと思います。後先考えずに目先の「イベント」に右往左往して、あまつさえ原因を当局の対応などに転嫁するのではなく、まず自らを律することで、企業活動や企業業績、経済情勢とかと関係ないところで指数の効率を落とすことをやめればいいのではないでしょうか。
インデックス投資(パッシブ投資)側もそろそろ「市場は効率的」という非現実的な理屈で進化(思考)を止めることを改め、「市場は非効率」という立場に立って現実の課題と向き合った方が良いのでは。無理に効率的と仮定してよくわからない理屈を作らなければならない必要があるようには思えません。むしろそれが「マイナスサムゲーム」に対する対応の足かせになっているようにも感じられます。
インデックス投資(パッシブ投資)に散見される理屈の不整合や場当たり的な市場変動を考えると、単に都合に合わせてなびいているだけのように映るんですよね。
非効率を受け入れる方が客観性や定量性に基づいて矛盾のない理論や対策を立てやすいと思うのです。どうせ同じ位置に戻ってくるのに、相乗平均を毀損してまで無意味な変動を繰り返すことが「市場の合理的な価格形成」と言えるのなら仕方ありませんが。
言葉の定義を変えて例の別の意味の「効率的」を考えてもインデックス投資(パッシブ投資)に「バリュー指数」というものが存在する時点で自己矛盾の無限ループ。ロジックでも「効率的」とは思えない。
金融メディアなどでも、例えば「日経平均17000円を回復」がどうとか何度も同じようなことを言っていますが、見ればわかるような表面的な内容ではなく、市場の内包する非効率性等に着目して解析を行い、根本的な原因や対策を議論するような論調にならないでしょうか。また、市場は何度同じ値を通り過ぎることを繰り返すのでしょうか。
『いい加減その場しのぎの結果論で茶化すのとかやめようぜ』
結局は、市場は人間の欲望心理の集合だから合理的な判断を求めることが間違っている、ということ、かも知れません。
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