「
II」で考えた対数正規分布の確率密度を用いてn年後の資産価値のバラツキをプロットします。μ=5%(相乗平均)、σ=15%です。比較のため確率密度に正規分布を用いたバージョンも並べます。
【時間リスクの確率密度と累積分布(対数正規分布)@シグマ】
【時間リスクの確率密度と累積分布(正規分布)@シグマ】
【時間リスクの確率密度と累積分布(対数正規分布)@資産価値】
【時間リスクの確率密度と累積分布(正規分布)@資産価値】
注目すべきは3番目のグラフです。nが10、20、30と増えるにしたがって資産価値の確率密度も累積分布も右側にシフトしています。例えば累積分布のマゼンタの線は確率50%で資産価値が1.6倍以上に、黄緑の線は同じく2.7倍以上に、水色の線は4.5倍以上になることを示しています。また資産価値1の断面を見ると、マゼンタの線は約14%で、黄緑の線は同じく約7%で、水色の線は約3%の確率で元本割れすることがわかります。
対数正規分布の特徴として、確率密度のピークが0σ、あるいは「相乗平均リターンのn乗」の位置に来ないことが挙げられます。私がこれまで"期待値"と言っていたものは「中央値(累積分布が50%になる値=median)」に相当します。対数正規分布における「期待値(平均値)」は「相加平均リターンのn乗」であり、「最頻値(確率密度のピーク=mode)」でもありません。正規分布では0σが中央値かつ最頻値かつ期待値であるのに対し、対数正規分布では0σが中央値のみを取ります。また「最頻値<中央値<期待値」という関係があります。
つまり対数正規分布では1σで68%、2σで95%が含まれるといった「何%の確率で○○から××の範囲に入る」という累積分布(確率)の議論は変わりませんが、確率密度が時間とともに変化していくことになります。
また、1番目のグラフを見るとシグマの確率密度が時間とともに左側にシフトしている上に高さも低くなっているので、対数正規分布ではリターンが下がっていくのではないかと感じるかも知れません。これは累積分布(確率)が縦軸の確率密度と横軸の資産価値との積分(面積)になるのでそう見えるだけです(横軸が対数だから圧縮されているように見える)。実際の0σが含まれる確率は50%で変わりません。
一応3番目のグラフにおいて横軸のログを解いてリニアにしてみると、
【時間リスクの確率密度と累積分布(対数正規分布)@資産価値(横軸リニア)】
指数関数はリニアで表すと右にだらだら裾を引きます。よって値の小さい方に重みづけしないと積分した面積が1にならないのでシグマの最頻値は時間とともに0σより小さくなっていく、と捉えると理解しやすいです。また面積を1に維持するために幅の広がりに応じて高さも低くなります。ただし繰り返しになりますが0σが中央値、つまり上からでも下からでも積分した面積にあたる累積確率50%に含まれることは変わりません。またこの例では水色のn=30では17%程度の確率で資産価値が10倍以上になるといったこともわかります。
その他に注意点として相加平均を使う場合は「μ=μ-σ^2/2」または「μ=μ-σ^2/(2(1+μ))」に置き換える必要があります。
以上、時間リスクの確率分布を考え、それが対数正規分布であることを確認しました。私自身統計は我流なんで間違い等ありましたらご指摘お願い致します。
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