スマートベータという言葉には抵抗がありますが今回はその方がスマートそうなのでそちらを使います。
基本的にスマートベータに否定的な内容で、全然スマートじゃないということが言いたそうな感じです。うまくまとめることが難しいのでトピックセンテンスを抜き出しながら箇条書きのように進めていきたいと思います。
私もコスト的には時価加重の方が効率的とか、過去データに対する依存性等々スマートベータの懸念は指摘しているつもりですが、断片的ですし、この記事にいろいろ書かれているので考えてみたいと思います。ちなみに過去データに依存せず統計的根拠を持つ等配分がベストで、続いて過去データの中でもシグマに絡む統計的インデックスがベターというのが私の考えです。企業価値といったファンダメンタル等は完全に後出しジャンケンなので特に思い入れがあるわけではありません。
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【概論】
『investors should be aware of the potential pitfalls of smart beta indices, which arise because they are not specifically designed for harvesting factor premia in the most efficient manner, but primarily for simplicity and appeal』
スマートベータの潜在的な落とし穴に気づくべき。効率的な方法でプレミアムを得るために設計されたものではなく(売り文句のための)アピール性ありきで生まれたものだから
例えば『value premium』も『low-volatility premium』も昔からあるファクターであって、スマートベータは単にそれをあるスキームでウェイティングしているに過ぎない(何も新しいものではない)ようなことが書かれています。まあ確かにあの特許が登録されるなら我々技術者の仕事はもっと楽になると思います。
『The only truly passive investment strategy is the capitalisation-weighted broad market portfolio, which represents the only buy-and-hold portfolio that could, be held in equilibrium by every investor』
"真の"パッシブ戦略が時価加重ポートフォリオ。全ての投資家で平衡状態が保持されうるバイアンドホールドポートフォリオのみ相当する
『require various subjective assumptions and choices』
『require periodic rebalancing to maintain their profile』
主観的な仮定や選択が必要
定期的なリバランスによるメンテナンスが必要
時価加重との違いがこの二つ(時価加重も市場の主観や選択の結果だと思うのですが。等配分はその主観性や選択性を排除するものと思っています)。確かに定期的なリバランスはコスト面で懸念されるものだと思います(この記事ではコストのことは出てきませんでしたが)。
『inefficient from a turnover perspective』
『based on back-tests which only go back 10 or 15 years』
流動性の視点から見て非効率
せいぜい10年から15年のバックテストを拠り所にしている
うっ、私も耳が痛い。インデックス対決ではMSCI EW算出開始からの15年くらいしか確認できませんでした。
『Investors should also carefully think about whether the factor premia driving historical smart beta index returns are likely to persist in the future』
過去のスマートベータのリターンが将来も続くか考えるべき
【LOW-VOLATILITY INDICES】
『one-dimensional view of risk, focusing mainly on past volatility and correlations』
『they completely ignore expected return considerations』
過去という一次元のリスク・相関しか見ていない
リターンを完全に無視している
『There is, in fact, a large dispersion in the expected returns of stocks with similar volatility characteristics』
似たようなリスク特性でもリターンには大きなバラツキがある
【MAXIMUM SHARPE RATIO INDICES】
『often regarded as alternative low-volatility approaches』
『go against the low-volatility premium by assuming that expected returns are proportional to (downside) volatility』
低リスクアプローチの代替とみなされる最大シャープレシオでリターンがリスクに比例すると仮定するのは低リスク効果に反する
『These two opposing forces, i.e. a preference for low-volatility stocks from a risk perspective versus a preference for high-volatility stocks from a return perspective, can cause the indices to have either a low-volatility or a high-volatility profile』
リスク面から見た低リスク株式とリターン面から見た高リスク株式という相反する作用によって低リスクか高リスクどちらかのプロファイルになる
シャープレシオは分母のリスクを小さくするか分子のリターンを大きくすることで改善できます。(低リスク戦略とみなされるらしい)EDHECインデックス等がリスクをリターンとして用いることによって上記のような矛盾が生じると述べられています。Maximum Diversificationインデックスの方は分母も分子もリスクらしく、そうするとSRは1でウェイトの付けようがなくよくわかりません。ただ少なくともEDHECインデックスは標準偏差と下方偏差の「比」を使っているだけでリスクの絶対値の高低と傾向はあっても直接は関係ないと思うのですが(「
相乗平均と下方偏差」参照)。
『Compared to the capitalisation-weighted index, the indices also appear to load on the small-cap and value factor premia』
時価加重と比較して小型株やバリュー重視になる
【EQUALLY WEIGHTED INDICES】
『These are typically regarded as a means to harvest the small-cap premium』
『The evidence for a small-cap premium mainly concerns the smallest, least liquid stocks』
『Equally weighted indices do not actually invest in these stocks, but continue to invest in large and medium-sized firms』
等配分は小型株戦略とみなされる
小型株効果が認められているのは流動性がごく小さい株式のみである
等配分インデックスは実際にはこれらを含んでおらず依然として大型株や中型株で構成される
『Thus, equally weighted indices are better described as strategies that try to exploit a possible difference in return between large stocks and even larger stocks』
等配分は大型株間のリターンの差異を可能な限り絞り出そうとする戦略とされる
『Equally weighted indices are thus able to profit only partly, at best, from the small-cap effect』
等配分は限られた利益しか得られない。せいぜい小型株効果で
そもそもの前提として、等配分は小型株を含まないといけないのか?という疑問を感じます。小型株効果は従属的なものであって等配分の主たる目的ではないと思います。たとえS&P500のような大型株のみでも「
期待値の分散とEqual Weight」で証明したような合成シグマ最小となる数学的作用や、「
イコールウェイトインデックスの合理性」で議論したような必ず平均値が得られるという合理性は成立すると考えます。これが私の考える等配分の目的です。
小型株効果がほしければ小型株インデックスを使えばいいだけだと思います。等配分に大型株しか含まれないことが述べられていますがそれはそのようなインデックスやファンドしかないからで別に小型株の等配分インデックスがあってもいいと思います。一般に等配分で小型株効果と言われるのは市場の時価構成がピラミッド型になっていて必然的に小型株が多くなるだけで、上記述べた数学的作用や合理性とは無関係です。
他のインデックスの項目を含めてバリュー効果とか小型株効果といったリターンありきの証券屋の見方で、バラツキのような統計屋の視点がないなあと思います。私が統計的インデックスを考えるのはリターンといった目先の変動に惑わされず視野全体を論理的に捉えたいためです。
『portfolio weights move continuously away from their target levels, so frequent rebalancing is required to maintain equal weights』
ポートフォリオがターゲットウェイトから断続的に変化するため等配分を維持するための頻繁なリバランスが必要
『As this rebalancing involves selling recent winners and buying recent losers, this goes against the momentum effect』
このリバランスは直近の値上がり株を売って値下がり株を買うのでモメンタム効果に反する
『some of the early adopters chose equally weighted portfolios, but soon abandoned this approach』
等配分の初期の採用者はすぐにこの手法をやめてしまった
『traditional capitalisation-weighted (buy-and-hold) index of true small stocks is a more appropriate and a more efficient way to capture the small-cap premium』
真の小型株を含む時価加重インデックスこそが小型株効果を得るために効率的で適している
頻繁なリバランスはモメンタムに反すると書いてありますが、行き当たりばったりな市場の変動には期待も信用もしていないので、人間心理を排除してそのシグマを数学的に最小化する等配分が合理的だと思っています。
リバランスに関してここで指摘されていない懸念はリバランスコストとそのときの課税ロスです。インデックスそのものはコストを気にしなくていいですが、たまに等配分についていただくコメントからも頻繁なリバランスによる実運用上のコスト増加を懸念されている方が多いのではないかと感じられます。
個人的には等配分は毎日リバランスする必要はないと思っており、最初に等配分でスタートしてくれれば必ずしも頻繁なリバランスは必要ないというスタンスです。MSCI EWIは3ヶ月に1回ですし、FTSE RAFIは1年に1回とのことです。そのようなコストがシグマや平均値に対する合理性に対して相対的に支配的になってしまうなら本末転倒です。それならリバランス頻度をコストに対して影響が小さくなるタイムスケールまで落とせばいいですし(上のモメンタムにも反しなくなる)、あるいはコストを信託財産留保額によって投資家で等しく負担すればいいと考えます(信託財産留保額によって売買の多い投資家も除外できる)。
毎日リバランスしないと等配分の効果が得られないとか、等配分と呼べないということではないと思います。例えば最初に等配分して5年間放置すれば5年間の平均値が得られることを意味し、また5年シグマが最小になると考えることができます。常に更新し続けなければならないというような1か0かの判断ではなくて、等配分の効果に影響のない範囲で時価加重ライクに放置してコストに配慮するなど費用対効果および全体最適、そして統計の考え方でインデックス投資を進化させていけばいいと思います。
等配分スタートでほったらかすということはつまり時価加重に近づいていくことを意味しますが、過去の時価加重の結果である現在の配分をとりあえずリセットしてほしいというのが最大の動機です。毎月積立をする上で、例えば○○:10%、△△:0.01%のような偏った配分で購入し続けるのが非合理的だと感じます。別に時価総額上位銘柄を特にほしいと思わないし、3桁もの差が意味のある分散とは思えませんし寄与率の割に運用コストが割高ではないかと懸念しています。
あとコストに関しては実際にファンドが設定された場合の希少価値コストが懸念です。単なる等配分なのにライセンス料高そうですし、その他いろいろな付加価値料が乗せられるのを懸念しています。S&P500EWのRSPが0.4%なのは実際にそれだけ経費がかかるのかレア度が上乗せされているのかはわかりません。
【最後に】
全体的にこの記事を読んで思うことは、申し訳ありませんが伝統的な時価加重至上主義のような印象というのが率直な感想です。私としては中立の立場で読むように努めましたし、等配分の弱みであるリバランスコストに突っ込まれるのを内心ビクビクしていました。時価加重を信じ込んでいる上にその他をスマートベータとしてすべてひとくくりにしてしまうから話がややこしくなるわけで、単なる等配分のどこがスマートなんですか?効率的市場とか業界の慣習に囚われすぎのように感じます。時価加重にもそれなりの理由があるんだからうまく使い分けて使いこなせばいいだけの話です。
あとナントカ効果といった定性的な話ばかりで裏にある定量的な背景が述べられていないのは残念に思います。私が時価加重が嫌なのは非論理的な市場を信用していないからです。彼らの判断を可能な限り排除し、配当や利子および世界経済の成長の「平均値」を「最小のシグマ」で得るための論理的な根拠が等配分にあると考えているからです(ここで言う最小のシグマとは最小ボラティリティ戦略ではなく、与えられた銘柄群の合成リスクを最小化するという意味です)。等配分なら過去のデータはもちろん未来の予想も必要ありません(ただし上で仮定が必要と指摘されているように全てが等シグマ等相関という大数近似的な仮定を置いています)。
ここで挙げられたいくつかのスマートベータに対する指摘に共通することは「選ぶ」という行為を前提としていることのように感じます(著者の先入観かどうかは知りませんが)。私は別に選ばなくてもいいと思っています。全部なりランダムサンプリングなりされた集合に等配分を適用すればいいだけです。加えてスマートベータがパッシブ戦略なのかアクティブ戦略なのか気にしていますがどうでもいいことだと思います。サーセン。
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