「高いリターンを得るためにリスクを大きく取る」という言葉を聞くことがあります。また敗者のゲームにも「リスクが収益を生み出す」という章があります。
昔からイマイチ理解できなかったこれらの意味について、確率分布を用いて私なりの解釈を考えてみたいと思います。
相乗平均リターンを5%固定とし、シグマを5%、15%、25%と振って30年後の確率分布をプロットすると以下のようになります。
【相乗平均リターンが一定の場合】
相乗平均リターンが同じなら、相乗平均リターンを表す中央値(累積50%)はリスクによらず一定(3本のラインが同じ点で交わる)。そして中央値より上の確率ではリスクが大きいほど資産価値は大きくなり、逆に下の確率ではリスクが大きいほど資産価値は小さくなる。
確かにリスクを取る方が同じ確率で高い結果を得られることがわかります。しかし反対側に振れることも同じ確率で起こります。つまり「リスクを取ってリターンを高める」とは「丁半バクチで高くなる方の結果に転ぶことに賭ける」とも言えます。またリスクが大きいほど元本割れ確率が上昇している点も重要です。
以上は「相乗」平均リターンが一定の場合です(相乗平均が一定になるように相加平均をシグマに応じて高く設定している)。では「相加」平均リターンが一定の場合ではどうなるか確認しておきます。
【相加平均リターンが一定の場合】
リターンを表すμが相加平均リターンの場合、リスクを取ると悲惨なことになります。バラツキが増すだけでなく、相加平均リターンがリスクに喰われて減ってしまいます(その結果が相乗平均リターン)。グラフでは相乗平均リターンを表す中央値(累積50%)の資産価値がリスクに応じて大きく低下していることがわかります。
相加平均リターンが同じなら、リスクを取れば取るほど資産価値の中央値は低下し、ブレは大きくなり、元本割れ確率は上昇し、求める高いリターンも50%には到底届かないわずかな確率に賭けることになります。リスクを取るときは当然ながらそれ相応の相加平均リターンの増加が見込めないと残念なことになるということがわかりました。
ちなみに相加平均リターン(μ)と相乗平均リターン(μ')との変換には「μ'=μ-(σ^2)/2」の関係を使っています。
【まとめ】
「リスクを取ってリターンを高めるということ」とは「確率の端に賭けるということ」。
私も投資をはじめた頃は長期投資する時間があるので新興株でリスクを取れば将来大きな結果が約束されるだろうと漠然と考えていました。しかし現在はリスクに対する考え方は変わっています。リスクが大きすぎると時間でもカバーしきれず、上記のようにリスクを取ることは単に確率の小さい部分で大きなリターンを見込むだけで、大部分の確率では効率が悪いことが数学的に確認できたからです。
つまりリスクを取っても平均的なリターン(=中央値)は「(σ^2)/2」で減少します。バラツキの中心に存在するリターンに対してリスクがプラスマイナスに等価ではないとも言えます(例えば10%下がった後に元に戻るためには11%上がる必要があるため)。これは資産運用が時間軸方向に「積」で積み重なる現象だからであると理解しています。このようにリスクとリターンとの関係が定量的にわかるようになってからアセットアロケーションを現在の形に変えました。
個人的には「中央値」が重要だと考えています。「期待値(平均値)」を上げることも「シグマ」を下げることも、中央値を支えることに繋がります。
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