すでに各所で報道されていると思いますが、要するに年金運用でリスクを上げることについて、個人的には以下のような情報を期待しています。
◆年金財政に与える影響
・変更の必要性
・将来の給付見込み
・バラツキに対する考え方
◆責任の所在
・責任者は誰か
この資料を元に変更内容を確認します。
【基本方針】
『運用目標(名目賃金上昇率+1.7%)を満たし、かつ、最もリスクの小さいポートフォリオ』
【想定期間】
『継続的に積立金を取り崩していく局面では流動性の確保に重点を置く必要があるなど運用の条件が異なることから、積立金の水準が最も高くなり、継続的に低下が始まる前までの25年間(~2039年)』
【基本ポートフォリオ】(資産構成割合±乖離許容幅)
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国内債券 |
国内株式 |
外国債券 |
外国株式 |
短期資産 |
変更前 |
60%±8% |
12%±6% |
11%±5% |
12%±5% |
5% |
変更後 |
35%±10% |
25%±9% |
15%±4% |
25%±8% |
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【ポートフォリオとリスク・確率に対する考え方】
『基本ポートフォリオ策定の際のリスクの捉え方については、全額国内債券運用の場合に積立金の実質的な価値を維持することができなくなる確率を基準』
『運用目標(名目賃金上昇率+1.7%)を満たしつつ、その一方で、下方確率が全額国内債券運用の場合を下回り、かつ、条件付平均不足率が最も小さいポートフォリオ』
名目賃金上昇率を基準とした累積確率による見積もりらしい。
下方確率(名目賃金上昇率を下回る確率)は全額国内債券以下であり積立金の実質的な価値を維持可能な水準。標準偏差および条件付平均不足率(≒テイルリスク)は当然ながら全額国内債券よりも基本ポートフォリオの方が大きいことには注意。なお全額国内債券の条件付平均不足率において正規分布より経験分布の方が小さいことは意外。
『想定運用期間の最終年度(平成51年(2039年))において予定積立金額を確保できないリスク(確率)は、経済中位ケースでは約40%、市場基準ケースでは約25%』
『比較のため全額国内債券運用の場合で同じシミュレーションを行ったところ、いずれのケース においても、ほぼ予定積立金額を確保することはできない』
いわゆる「時間リスク」と同等の図です。こちらはおそらく給付や積立が含まれたかなり複雑な計算(シミュレーション)がされていると思います。少なくとも全額国内債券では予定積立金額を満たせないこと、および基本ポートフォリオの中央値が予定積立金額を満たしていることが確認できます。ただし25%、75%と書かれた点線は1σ(16%、84%)以下なので2σ、3σの場合にどうなるか認識しておく必要があると思います(-2σでは全額国内債券を下回るのではないか)。
【その他】
『「条件付平均不足率(経験分布)」は、株式等は想定よりも下振れ確率が大きい場合(いわゆる「テイルリスク」)もあることを考慮し、正規分布に替えて、過去20年のデータ(経験分布)から一定の仮定を置いて乱数を発生させ計算』
『基本ポートフォリオで運用した場合の積立金の時系列推移を推計するため、ケースごとに10万回のシミュレーション』
それ相応のsimをやっているようです。解析的に解くのは難しそうなので乱数振ってモンテカルロが普通だと思います。以前確率で示してほしいとブログで書いたところ実際にそのような内容になっていてよいと思います(個人の給付額ではなく全体の積立額ですが)。データや根拠、対策案を示さずに組織の意思決定も他者の説得もできるわけがないのですから。
あと、今はうまくいっているから何も言われないでしょうが、またいつか大きくマイナスになることがあれば騒がれるんだと思います。今度はそれまでの比ではない損失にもなりうることは覚悟すべきかと思います(リーマンの20年度で-9.3兆円(-7.57%)。次は-20兆円では済まないかもしれません)。承認者は厚生労働大臣だそうですが・・・大変ですね。
今回の変更が政権や市場への迎合ではなく、年金継続のために論理的に導かれた必然であることを願ってやみません。
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