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インデックス・ドライバー

「カイリを制する者はインデックス投資を制す」

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「カイリを制する者はインデックス投資を制す」

カイリとは乖離です。トラッキングエラー。指数に対する基準価額の追従性です。

前に「「シグマを制する者はインデックス投資を制す」」をやりました。今回はもう一つやりたかったネタです。

いつもの「累積騰落率差」や「規格化基準価額比」は、とある基準インデックスファンドに対するrelativeなdistanceです。それは円換算されたデイリーの配当込み指数を手に入れるのが容易ではないからです。理想はインデックスに対するabsoluteなdifferenceだと思います。

トラッキングエラーには二種類あると考えています。

◆継続的な(一方向の)トラッキングエラー
◆短期的な(高周波の)トラッキングエラー

まず代表的なグロ株インデックスファンドのマンスリーレポートからインデックスに対するトラッキングエラーを調べてみたいと思います。

【騰落率の切り抜き(@2015/10/30)】

とりあえず各社の月報の「騰落率」の部分を切り貼りしてみました。こうしてみるとわかることがあります。特に「ベンチマーク(インデックス)」の部分に注目なのですが、同じ2015/10/Eで作成されているはずなのに値がすべて異なります。

これは各社の円換算方法や為替のサンプリング時刻、配当込み指数(Gross)、税引後配当込み指数(Net)、配当なし指数(Price)等のさまざまな要因が絡むと推定されます。

ここでベンチマーク(MSCIコクサイインデックス/ドル建て)と為替(ドル円/TTM)のデータを入手して解析してみます。

インデックスは「MSCI(msci.com)」から、為替は「三菱UFJリサーチ&コンサルティング(murc-kawasesouba.jp/fx/past_3month.php)」から。※為替は基準価額算出日の当日ですが、指数の方は日本より1日遅いのでずらしています。

算出したベンチマークの1年騰落率と各ファンドの基準価額(Morningstar Japanより)、および上記切り抜きの1年騰落率を抜き出したものをマージしてまとめてみます。

【騰落率の一覧(1年@2015/10/30)】
ファンド(月報) ベンチマーク(月報) 2014/10/30から 2014/10/31から
スタム 13.11% 11.68% 14.06% 13.11%
eMAXIS 12.94% 11.07% 13.89% 12.94%
ニッセイ 12.9% 13.4% 13.86% 12.90%
インデックスe 13.20% 14.49% 14.15% 13.20%
野村 13.1% 13.9% 14.02% 13.07%
DC野村 13.53% 13.86% 14.48% 13.53%
MSCI KOKUSAI(Gross) --- --- 14.43% 13.86%
MSCI KOKUSAI(Net) --- --- 13.77% 13.21%
MSCI KOKUSAI(Price) --- --- 11.62% 11.07%













同じ色のところが同等の手法で算出された部分と考えています。こうやってみると各社ほんとにバラバラです。定義や算出方法を統一してほしいと思います(よくよく調べてみると2015/10/30の1年前が2014/10/30なのか2014/10/31なのかの定義も各社バラバラで、ファンドとベンチマークで日付がずれているところもあるようです)。

あと今回割と精密に検討してみましたがそれでもニッセイだけは何のベンチマークを使っているか特定できませんでした。日付がずれているか為替の時間が違うのでしょうか。

ここでは指標を統一するために、とりあえず自分で求めたベンチマークと基準価額との差分を求め、さらに直近の運用報告書による実質コスト(経費率)を抽出しておきます。

【ベンチマークとの差分(2014/10/31-2015/10/30)と実質コスト一覧】
Gross基準 Net基準 Price基準 実質コスト(税込)
スタム -0.75%(-0.80%) -0.10%(-0.23%) 2.04%(1.77%) 0.590%
eMAXIS -0.92%(-0.92%) -0.27%(-0.36%) 1.87%(1.64%) 0.694%
ニッセイ -0.96%(-0.93%) -0.31%(-0.37%) 1.83%(1.63%) 0.532%
インデックスe -0.66%(-0.74%) -0.01%(-0.17%) 2.13%(1.83%) 0.579%
野村 -0.79%(-0.84%) -0.14%(-0.27%) 2.00%(1.72%) 0.620%
DC野村 -0.33%(-0.46%) 0.32%(0.12%) 2.46%(2.13%) 0.273%
MSCI KOKUSAI(Gross) --- 0.65% 2.79% ---
MSCI KOKUSAI(Net) -0.65% --- 2.14% ---
MSCI KOKUSAI(Price) -2.79% -2.14% --- ---













カッコ内は後述する規格化基準価額比の2013/12/10-2015/10/30における最小自乗近似のslopeから年率換算したカイリ率です。二値で求めた結果と相対的にはコンシステントのようです。以下、算出したデイリーのMSCIコクサイインデックス(円)と各ファンドの基準価額の時系列依存を確認しておきます。

【基準価額のベンチマーク(Gross)基準の規格化基準価額比】

【基準価額のベンチマーク(Net)基準の規格化基準価額比】

【基準価額のベンチマーク(Price)基準の規格化基準価額比】

配当込み指数(Gross)、税引後配当込み指数(Net)、配当なし指数(Price)のそれぞれを基準とした規格化基準価額比となります。いつものやつはこれをスタムで傾き補正したものに相当します(指数を求めるのがめんどいので普段は相対値だけ)。

グラフ全体から推定される単位時間あたりの傾きとしては、インデックスファンドの基準価額は「税引後配当込み指数(Net)」から「運用管理費用(実質コスト)+α」を減算したものをトレースしているように見えますが、差分一覧を見ると「配当込み指数(Gross)」から「配当金に対する課税(約2%×10%~0.2%)」と「運用管理費用(実質コスト)+α」を減算したものをターゲットにしていると見る方がコンシステントに思います。ここでαはトラッキングエラー等を想定しています。

これを見ると「税引後配当込み指数(Net)」の"税引後"というのが謎ですね。どんな課税を仮定しているのか。

さらに線形近似の傾きによるカイリ率と実質コストとの相関図を描くと以下のようになります。

【ベンチマークとの差分(2013/12/10-2015/10/30)と実質コスト相関】

グラフに高周波なギザギザが目立つように、とある一つの期間のみで判断するのは危険ですが、少なくともこの範囲では実質コストとベンチマークとの差分(実質カイリ)に完全な相関があるわけではないようです。

【考察】
個人的には最近はほとんど実質コストを見ていません。累積騰落率差、規格化基準価額比を見れば時間依存を含めて相対的な部分はだいたいわかりますし、実質コストだけではトラッキングエラーを含めたインデックスファンドの実力を判断できないからです。最近の低コストファンドはコストだけでは判断を誤るものがありますが、コストの他にカイリについても知見を提供してくれるのは参考になります。

パッシブ投資はコンマゼロ数パーセントのコスト(信託報酬、実質コスト)や分配による課税ロスには敏感なのに、トラッキングエラーやETFの市場カイリにはあまり関心がないように見えます。当然ながらタチの悪いのは複利に近い性質を持つ継続的なトラッキングエラーですが、複利とオフセットの違いがあるとしても、短期的なトラッキングエラーもコンマゼロ数パーセントのコスト差を長期投資でキャンセルしきれないような幅で発生することがあります。

これまでの知見から、コスト差が簡単に吹っ飛ぶようなカイリは割と頻繁に発生しているようですし、そもそもシグマによってコストやカイリ以上のリターンが蝕まれています(リスクによるリターンの消失)。それなのに多くのインデックスがリスク管理の意識のない時価総額比率で運用され、それが放置されているのが不思議です。

メディア等でも信託報酬や実質コストは重視されるのに、トラッキングエラーや「リスクによるリターンの消失」はスルーされることを疑問に思います。インデックス投資では特定の指標のみに囚われず、カイリや指数の特性などを含めた「トータル」で判断することが肝要と考えています。

【まとめ】
真に重要なのは実質コストが低いことではなく、配当込み指数から配当源泉課税と実質コストを減算した値に基準価額が精度よく追従するかということだと思います(残りの成分がトラッキングエラー)。なぜならこれは"インデックス"投資であり、その前提が成り立たないと実質コストだけでは判断できないからです。

トラッキングエラーを最小化した上で実質コストを低減していただくことがインデックス投資としてあるべき姿ではないでしょうか。コストが低いだけでよければそれはインデックス投資ではなく"低コスト"投資です。

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