三菱UFJ投信がeMAXISのサイトで「つみたてシミュレーション」を公開しましたが、そこで気になることがあってしばらく考えていました。
±1σ、±2σの幅をもって資産額が増えていくグラフのσのラインについて悩んでいました。計算の説明ページを見ると、リターンにa×σを加えてそれぞれ12で割ったものをそのσでの月次リターンとして用いています。でもそうすると、リターンがリスクより大きくないといつまで経っても資産額が元本を上回らないことになります。また、例えば-2σのラインは毎回2.5%(=(100-95)/2)の確率を取り続けることになるのかという疑問があります。(12で割るのか^(1/12)なのかは置いておいて、0σのラインは問題ないと思います。)
一方私も最初の頃にσの幅をもたせた計算をして、長期投資すればリスクは多少大きくてもプラスになると書きました(
時間とリスクの関係)。今回のツールはそれと矛盾しています。
ただ私も少し前から自分の計算が怪しいと思って考えていました。というのはあれを年次から月次に変換しようとすると整合性がとれないことに気づいたからです。
結論から言うと私も三菱UFJ投信もどちらも正しくないと思われます。そこでもう一度時間とリスクの関係について考え直します。
答えは山崎元さんのコラムにありました。
標準誤差の考え方から、σのリスクをもつ資産をn年間運用すると、1年あたりのリスク(n年間の平均リターンの標準偏差)はσ/√nに減少します。注意すべきは、その資産自体は毎年σでバラつくけど、n年間ずっと運用してきた人にとっては過去のバラツキに揉まれて平均化されて見えることです。
これを確認するために、例えば平均ゼロ、σ=20%の正規分布に従う乱数を1024個発生させ、1個1個のヒストと、5個分の相加平均のヒストをとると以下のようになります。
1年リターンの標準偏差が20%に対して、5年間の平均リターンの標準偏差は8.7%になりました。これは20%/√5=8.9%とほぼ同等です。つまり5年間のうちプラスもあればマイナスもあり、たとえ-2σでも毎年-2×20%を取り続けるわけではないことを表しています。
また、σ/√nを合成リスクの観点から見ておくと、時間方向にランダムな独立事象をn個加算平均した場合に相当するので、合成リスク/個数=(√n×σ)/n=σ/√nとなります。
よって、n年間運用するときの1年あたりのリスクはσ/√nを用いて計算する必要があると考えられます。なお、例えば5年目にσ/√5、10年目にσ/√10を掛けるのではなくて、5年ならσ/√5を5年間掛け続けることになります。
具体的にn年後のa×σのラインを求めようとすると、元本をC0、リターンをμとして、
f(n)=C0×(1+μ+a×σ/√n)^n
これなら、年次を月次にするときもμを^(1/12)or/12、σを/√12にして放り込んでやればつじつまが合います。さらに積立の場合はnを1ずつディレイした和になると考えられます。これは積立で後から買われたものは期限までの時間が短くなるので1/√nの効果が小さくなるからです。具体的には、
g(n)=Σf(k)=Σ[C0×(1+μ+a×σ/√k)^k] (k=0,…,n)
これらを図示すると以下のようになります。
【リターン5%(年)、リスク15%(年)の場合(年次)】
【積立の場合(年次)】
上のグラフで-1σは元本を上回るのに9年かかり、-2σは30年では無理で36年かかります(=(-a×σ/μ)^2)。同様に下のグラフで-1σは16年、-2σは59年です。
◆長期投資すればマイナスのσの下限でも元本を上回ることができる
(リスクが(相乗平均)リターン(>0)より大きくても元本を上回ることができる)
という結論は変わりませんが、そのために必要な時間やリターンリスクの値がかなり厳しくなるという結果になりました。
ちなみに三菱UFJツールの想定リスク(年)に「想定リスク(年)/√積立期間(年)」を入力すると大まかには近くなるようです(σ/√12/√(12n)×12=σ/√n)。ただ漸化式的なので途中や積立分にも1/√積立期間(年)が適用されています。
投資をやっていて知りたいことや疑問に思ったことを自分で考えるようにしていますが間違っていたら意味ないですね。お詫び申し上げます。
こういう考え方や具体的な計算法が書かれたソースを知らないのでそういう実務的な本などをご存知でしたら教えてくださいm(__)m
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