前回「
I」でn年後の資産価値の対数が正規分布のようだということを確認しました。このことは正規分布に従う騰落率をn回掛けたもののlogを取ればそれはまた正規分布に従うだろうと直感的にも予想されます。
とりあえず教科書はないのでWikipediaさんに教えてもらいます。「幾何ブラウン運動」のページを参照します。
次の式を考えます(nは時間、aは何シグマかです)。
df(n)=μf(n)dn+a×σf(n)dG(n)
=f(n)[μdn+a×σdG(n)] ・・・①
これはある時点のf(n)の変分df(n)がその時点のf(n)に対するリターンμと、平均ゼロ、標準偏差σの正規分布(G(n)は標準正規分布)に従うバラツキで決まることを表した微分方程式です。基本的にブラウン運動のランジュバン方程式と同種のものと思われます。
①式を以下のように書き換え、初期条件をf(0)として両辺積分します。
df(n)/f(n)=[μdn+a×σdG(n)]
ln[f(n)/f(0)]=μn+a×σG(n) ・・・②
=μn+a×σ√n ・・・②'
ここでG(n)=√nとしたのは例の誤差伝搬で時間とともに誤差が√nで増加していくというのを使っています。
②'式を変形して、
f(n)/f(0)=exp[(μn+a×σ√n)] ・・・②''
②''式は前回記事の③式と同じです。ここで改めて②式を見ると、
a×σG(n)=ln[f(n)/f(0)]-μn
これからln[f(n)/f(0)]が平均μn、標準偏差σG(n)=σ√nの正規分布に従うと考えることができます。logを取っているので対数正規分布です。つまりn年後の資産価値の確率密度は対数正規分布で表されることがわかります。
対数正規分布の確率密度の定義はWikipediaさんによると、
P[X]=1/[(2π)^(1/2)σX]exp[-((ln[X]-μ)^2)/(2σ^2)]
ここでX=f(n)/f(0)、μ=μn、σ=σ√nと置き換えて、
P[f(n)/f(0)]=1/[(2π)^(1/2)σ√nf(n)/f(0)]exp[-((ln[f(n)/f(0)]-μn)^2)/(2(σ√n)^2)] ・・・③
つまり横軸にf(n)/f(0)、縦軸にP[f(n)/f(0)]を取ることでn年後の資産価値の確率分布を表すことができます。
さらに累積分布(トータルの確率)は確率密度の資産価値方向への積分、つまり確率密度と資産価値との面積で表されます。
F[f(n)/f(0)]=σ√nΣ[P[f(n)/f(0)]f(n)/f(0)]
=σ√n∫P[g(n)/g(0)]d[g(n)/g(0)] (g(n)/g(0)を0からf(n)/f(0)まで積分) ・・・④
「I」でn年後の資産価値の確率密度に騰落率の正規分布の確率密度を用いました。しかし資産価値の分布と騰落率の分布は別物なので、他の確率密度を使う必要があります。それが今回確認した対数正規分布の確率密度(③式)です。
ちなみにここまで見てきたようにf(n)/f(0)は以下の二種類で表せます。
f(n)/f(0)=(1+μ+a×σ/√n)^n
f(n)/f(0)=exp[(μn+a×σ√n)]
前者は私が普段使っているものです。後者は前者のnを無限大に分割したときの極限だと思われますが、対数正規分布に相性よさそうなのでこのシリーズではこちらを採用します。
とりあえず今回はここまでにして次回具体的に分布をプロットして確認したいと思います。
ところで私は普段リターンと言ったら基本的に相乗平均(幾何平均)リターンを考えています。今回の式に出てきたμは相乗平均リターンならμのままでよく、相加平均(算術平均)リターンなら「μ=μ-σ^2/2」または「μ=μ-σ^2/(2(1+μ))」で置き換えればよいと考えられます。("伊藤氏の公式"というものでは(1+μ)が無いようですがどちらもテイラー展開を使っているので私のやつは大間違いではないと思います。「
シグマで失われるリターン」参照)
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