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長期投資による時間平均の作用

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長期投資による時間平均の作用

「長期投資でリスクは低減するか」という議論があります。リスクの定義次第ですが個人的には「変わらない(標準偏差)」という認識です。リスクを加算(σ√n)しても加算平均(σ/√n)しても大元の標準偏差(σ)は変わりません。

金融機関は標準誤差を例にとって「低減する」が多いようです。確かに投資家を安心させて商品を買ってもらい長期的に手数料を確保しようとするなら当然の主張かも知れません。





これらを見て気になったことは、

①「リスクが減る」という表現と「振れ幅が安定する」という表現に分かれていること
②「マイナスになる回数が減る」という表現

まず①について考えます。長期投資で減るのは平均値のバラツキで、平均値自体の大きさは変わりません。平均値の推定精度が上がるだけです。したがって私の認識と一致するのは三井住友トラストのみです。こちらではグラフの縦軸に「年"平均"収益率」と記載され、リスクが減るとは言わずにリターンの振れ幅が安定すると表現されています。

標準誤差はローパスフィルタにより周辺とのバラツキを小さくする(眠くする)だけであって平均レベルを変えるものではありません。身近なもので例えるならデジカメで撮った写真があります。例えば横6000画素x縦4000画素の画像を横半分、縦半分にシュリンク(リサイズ)すると画像が小さくなる代わりにノイズの減ったきれいな絵になると思います。しかし全体の露出が変わる(暗くなる)わけではありません。この場合は2x2=4画素が平均化されたということで、輝度値ではなくノイズ(SN)が1/√4=1/2になります。(私の雪山の写真も等倍で見ると残念なものですがシュリンクするとそれなりの画に見えます。)

次に②を眺めていて標準誤差で重要なことを思い出しました。「マイナスになる回数が減る」のは測定期間のリターンがプラスの場合に限られます。時間平均すれば必ずマイナス回数が減るということは保証されていません。

具体的にグラフで示します。論点を押さえるためにMSCIジャパンのデータから都合のよい位置で25年間を切り取ります。そこから月間変化率の1年(12ヶ月)移動相乗平均の年率換算と10年(120ヶ月)移動相乗平均の年率換算を求めます。下方圧力を強めるためgrossではなくprice(配当なし)としています。

【平均変化率が正の期間(1972/01/31-1996/12/31)】

【平均変化率が負の期間(1987/10/30-2012/09/28)】

前者は各社のサイトと同じ結果です。10年平均すると平均値は変わらずバラツキが小さくなります。一方後者は10年平均すると平均値は変わらず(若干ズレていますが)、ほとんどの期間でマイナスになりバラツキも小さくなっています。つまり精度よくマイナスのリターンを推定できていることになります。要するに標準誤差は平均値の大小を変えるものではなく、平均値をプラスにしてくれるものでもありません。長期投資でもタイミングが悪ければ結果はマイナスになります。

ちなみに変化率の10年平均は安定しても、10年間を過ごす中で目の当たりにする1年ごとの変化率は1年のグラフと変わらないので注意です。例えば年末に日経平均の年間騰落率がニュースになったりしますがあの数字が年とともに小さくなるわけではありません。後者のグラフで見ると、1年しか投資しないと-50%から+50%くらいになる可能性があり、10年ほったらかせば(年平均が)-10%から+5%くらいに収まるということです(平均がそうであるだけで資産価値はその複利でバラツキが大きくなっていきます)。

結局、時間nの時点でリスクが「√n」倍になっているところを時間nで平均するから「√n/n=1/√n」倍のように見えるだけです。強いて言えば「リスクが低減するのではなくリスクの"バラツキ"が低減する」です。

【まとめ】
時間平均は「変化率の平均的なブレが減るだけで、変化率の平均値を減らすわけではない」ということになります。また「マイナスになる確率は全期間の変化率に依存する」ものであり、長期投資がプラスの結果を約束するものではありません。

繰り返しますが、重要なのは長期投資は平均値のバラツキを抑えるだけということです。そのバラツキを抑えることで中心にある平均値(期待リターン)を精度よく抽出することが時間平均の作用です。

ただし長期投資において平均値のバラツキを抑えても時間の複利も並行して作用するため資産価値スケールで見たバラツキは増大します(標準誤差より複利の方が増加するタイムスケールが圧倒的に速い)。よって時間平均により「リスクが減る」ではなく「ブレが小さくなる」程度に捉えるのがよいと思います。

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