非時価インデックスの時間依存に続いて、
梅屋敷商店街の水瀬さんがご紹介されていたニッセイ基礎研のレポートを考えてみます。
要旨は「リバランスはリスクとリターンを最適な状態に保つだけでなく、相乗平均リターンを高める効果がある。それは個別資産のシグマが大きいほど、また相関によるリスク低減効果が大きいほど顕著である」となるでしょうか。
◆数式の確認
与式は以下の通りです。
リターンを消失させる「ノイズ」である「(σ^2)/2」を出発点として、個々の資産では不利になるこの考え方が、それを合成したポートフォリオ(分散投資)ではプラスに働くことが数学的に示されています。
上図はレポートの(3)式になりますが、この変形(※の式)が個人的にあまり自明なような気がしなかったので確認します(資産iとポートフォリオの共分散って何だっけ?と)。誤差伝搬の式から、合成リスクはベクトルと行列を用いて以下のように表されます。
このように「Σwiσip」は「Wtを掛ける前のσp^2」であることが確認できます。
◆第二項が非負であることの確認
次に与式第二項が「非負」になるのかを知りたいです。つまり「ポートフォリオの分散は必ず個々の資産の分散の加重平均以下になること」を示したいのですが、自分の線形代数の理解では任意のシグマ、相関、ウェイトにおけるn資産の一般的な証明ができませんでした(直感的には明らかですが式変形で示せない)。なので2資産で確認しておきます。
このように少なくとも2資産では「リバランスボーナス」は必ずゼロ以上になることが確認できました。
余談ですが分散(標準偏差の自乗)ではなくシグマ(標準偏差)についても「ポートフォリオのシグマは個々の資産のシグマの加重平均以下になること」がありますが、この証明も2資産ではできますがn資産ではできていません。
◆2資産の場合で図示
与式を元に2資産の場合のグラフを描いてみます。資産1のウェイトW1と相関係数r12を軸としてプロットします(数値は%に読み替えてください)。σ1を20%に固定して、σ2を振った複数の図を示します。
【σ1=20%、σ2=20%(三次元)】
【σ1=20%、σ2=10%(三次元)】
【σ1=20%、σ2=0%(三次元)】
グラフを描くと式だけでは分かりにくいことが直感的に認識できてよいと思います。3番目の図のように一方の資産がσ=ゼロだと土管みたいになるようです。ここでσ1=20%、σ2=10%の場合の断面を切り取ってみます。
【σ1=20%、σ2=10%(二次元)】
①「Σwiσi^2」の成分
②「σp^2」の成分
③資産1の寄与
④資産2の寄与
⑤「(1/2)(Σwiσi^2-σp^2)((①-②)/2)」または「資産1と2のサメイション/2((③+④)/2)」
これらから分かることは、少なくとも2資産においては、
・等配分(W1=50%)が「リバランスボーナス」の極値を取っている
・相関(r12)が低いほどボーナスが大きくなる
・相関(r12)が1でも2資産のシグマに差があればボーナスが発生する
・2資産のシグマの和が大きいほどボーナスが大きくなる
・2資産のシグマの和が等しいとき、その差が大きいほどボーナスが大きくなる
・資産1と2の成分を分離すると一方がマイナスの場合がある(2資産のΣを取ることでゼロ以上となる)
特におもしろいのは「Σwiσi^2-σp^2」は「σp^2」を「Σwiσi^2」で傾き補正したような形になっている点です。それぞれのグラフを個別に見るとウェイトに対して非対称ですが差分を取ると対称になることがわかります。
◆「リバランスボーナス」を極大化するウェイトの一般式
n資産において「Σwiσi^2-σp^2」が極値を取る時のウェイトの一般形を求めます。いつものラグランジュ未定乗数法(
→参考)を使います。3資産から始めて一般形にします。
最後の式の第一項は合成リスク最小配分を表し、そこに第二項の成分が加算される形になっています。
ここで2資産の場合は変数がすべてキャンセルされてW1=W2=1/2となり、上の図で示した通り「シグマと相関によらず常に」等配分が「リバランスボーナス」を最大化することがわかります。これは合成リスクにおける等配分にもない特性です。
しかし3資産以上の場合はシグマや相関が異なると等配分では極値を取ることができないことが上記導出した式でわかります(数値計算でも確認)。ただし、等シグマ等相関を仮定すれば上式により等配分が「リバランスボーナス」を極大化することがわかります。
なお、ここでは「シグマと相関による」リターンの押し上げ効果のみを目的関数としてウェイトを求めていますが、ポートフォリオ(ウェイト)を設計する上では合成リスクおよび合成相乗平均リターン(SR)と合わせて考える必要があります。しかしながら等配分がシグマを最小化するのと同様、大数近似で等シグマ等相関を仮定すれば等配分が「リバランスボーナス」をも最大化することになります(後述するように表裏一体の関係だから)。またひとつイコールウェイトの合理性を説明する論理的材料が手に入ったことになります。
◆シグマで失われるリターンを完全にキャンセルできるケース
例えばシグマが20%あると「(σ^2)/2」で2%のリターンが失われます。
ここで例えばσ1=20%、σ2=20%、W1=50%、W2=50%、かつ相関係数r12=-1の2資産を合成する場合、個々の資産はそれぞれ2%のリターンが失われており、合成リターンも2%失われた平均となります。しかし上のグラフにあるようにこのポートフォリオは「リバランスボーナス」が2%得られるため差し引きゼロです。なおこの条件は合成シグマがゼロになるケースです。
数学的には「(1/2)(Σwiσi^2-σp^2)」の項の「-(1/2)σp^2」が分散投資によりゼロとなる場合に「(1/2)Σwiσi^2」だけが残るためと考えられます。これは消失リターン「(σ^2)/2」の加重平均であり、失われたリターンをカウンターで完全にキャンセルすることを表します。なお等ウェイトでなくても2資産ではr12=-1かつW1=σ2/(σ1+σ2)の場合に合成リスクはゼロになります。
つまりこれは相乗平均リターンを相加平均リターンに復帰させることができることを示しています。
◆リバランスしないポートフォリオ(バイアンドホールド)との関係
注意しなければいけないことは、今回の式が言っていることは「ポートフォリオの相乗平均リターンが個々の資産の相乗平均リターンの加重平均より大きくなること」であって、「リバランスしないポートフォリオの相乗平均リターンより大きくなること」は言っていないという点です。
これは「
連続リバランスにおけるバラツキについて」で考えたように、シグマがゼロで上昇し続けるようなケース、あるいは上昇し続けなくてもシグマや相関、ウェイトの条件によっては、ほったらかす方が結果的に相乗平均リターンは大きくなることがあります(自己相関がプラスの資産のウェイトが増える(または減る)方が都合が良いような場合)。
例えば以下のような変動をする2資産のポートフォリオリバランスをシミュレーションすると、「リバランスボーナス」は確かにプラスですが、相乗平均同士の差分である「リバランスーほったらかし」はマイナスになっています。(σ1=5%、σ2=10%、W1=60%、W2=40%)
つまりほったらかしの王様である時価加重も考え方によってはそれなりの合理性を備えていると言えます。個人的に時価加重の非合理性は放置することではなく購入する時点のウェイトに偏りがありすぎることだということが最近の考えです。
なおこのsimのようにほったらかし側のウェイトが時間で連続的に変化して実効的な相乗平均リターン(与式の「gp」の主に第一項の寄与)が変わってくることも今回の式は示していますが、それは「リバランスボーナス」とは別の話という認識です。
また、「"リバランス"ボーナス」となっていますが、個人的には「ノイズキャンセル効果」や「分散ボーナス」と言う方がしっくりきます。なぜならリターンを削る"ノイズ"としてシグマを議論しているからです。
◆結論
最初の式を以下のように書き換えます。
分散されたポートフォリオの相乗平均リターンを「加重相乗平均リターン+リバランスボーナス」として考えるか「加重相加平均リターンー消失リターン」として考えるかの違いです。どちらも結果は同じです。「リバランスボーナス」は「消失リターン」の裏返しだったということになります。
つまり相加平均と相乗平均との関係を記述する「(σ^2)/2」がポートフォリオの合成リスクでも成り立つことを示すものです。式だけ見ると複雑ですが結論は自明なように思います。分散投資のノイズリダクション効果によるシグマ低減がリターンにも好影響を与えることが「リバランスボーナス」と言えます(加重平均以上にシグマが減った分によりロスも減ることになる)。
以上をポンチ絵としてまとめます(ノイズキャンセル効果という言葉に置き換え。ベクトルの向きが符号)。
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