ひょんなことから「ローリングリターン」という言葉を知りました。端的に言えば移動平均による平滑化を指すみたいです。
例えば「敗者のゲーム(新版)」P.96,97のグラフが平均年数別の「ローリングリターン」そのものですし、「ウォール街のランダム・ウォーカー(原著第9版)」P.395のグラフはそれの最大最小をとったものと思われます。
主に電気回路や信号処理において高い周波数の振幅をカットしたり帯域制限をかけたりするのにフィルタが用いられると思います。アナログ回路ならRとCでフィルタが作れますし、デジタルでもFIRやIIR型などのロジック回路があります。またガウシアンで重みづけをすることも考えられます。
移動平均もいわゆる「ローパスフィルタ」「スムージング」の一種であり、高周波成分を落として眠くするのに用いられます。「ローリングリターン」も言葉の定義の問題だと思います。一定間隔でグルグル巻き込んでいく様からカメラのローリングシャッターのようなイメージです。また株価チャートで25日とか75日移動平均線というものがありますが、タップを複数持つことで周波数成分を分離する意図があると考えられます。
資産運用において平滑化は主にリターン(騰落率)で行われると認識しています。見かけ上の騰落率のブレが小さくなるので、長期投資でリスクが減るとか元本割れ確率が減るとかミスリードされることが多い概念です。それについては「
長期投資による時間平均の作用」などで考察していますので、今回はリターン以外のシグマや相関係数でも同様なフィルタが適用できることを確認したいと思います。
1969/12/Eから2014/12/EまでのMonthlyのMSCI JAPAN(Gross/Local)をベースにタップを1年から20年まで1年刻みで振り平滑化を行います。軸を時間、タップとして三次元プロットを描きます。
【リターン(相加平均)の平滑化】
【リターン(相乗平均)の平滑化】
【シグマ(標準偏差)の平滑化】
【相関係数の平滑化】
【リターン(メジアン)の平滑化】
【考察】
相加平均の平滑化ではタイムスケールを延ばすほどバタツキが小さくなり推定精度が増しています。相乗平均はそれを複利率で行ったものであり、消失リターンによる高さの低下以外は周波数特性はほとんど変わりません。しかしシグマの平滑化を見るとシグマのブレは低減してもゼロに近づくわけではないので「長期投資でリスクは減らない(変わらない)」ことがわかります(複利にするとn乗または√n倍で誤差伝搬される)。相関係数ではMSCI KOKUSAI(Gross/Local)を臨時メンバーに加えて同様にタップに応じたランニングコリレーションを求めています。そして今回はメディアン(中央値)によるいわゆる「メディアンフィルタ」をメンバーに迎えました。どのメンバーも平滑化の期間を長く取るほどバラツキは低減することが確認できます。
時間方向は基本的に誤差は√nで広がっていきますが、加算平均では最後にnで割るため誤差は低減します。資産形成における「ローリングリターン」は平滑化でノイズが減ることで平均値(期待リターン)が見えてきているという解釈です。
【雑談】
バンドに例えるなら上からギター1、ギター2、ベース+ボーカル、ドラム、キーボードですかね。私はベースが好みです。
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