個人的に「ゲイン」とか「オフセット」という言葉をよく使います。仕事柄ものごとをゲインとオフセットに分けて考えることは少なくないのですが、特に長期投資においてもこの考え方は重要だと思っています。
【ゲイン成分とオフセット成分のポンチ絵】
最初に手数料がかからなくても、信託報酬(実質コスト)が高ければそのうち逆転されてしまうことをポンチ絵で表現しています。長期投資ユーザーとして優先的に排除したいのは継続的にかかるゲイン成分のコストだと思います。
◆ゲイン成分:継続的に割合(複利)としてかかるもの
◆オフセット成分:ゲイン成分以外のもの
【資産運用に関わるゲイン成分とオフセット成分】
①継続的に割合としてかかるもの ・・・ゲイン成分
【例】信託報酬(消費税含む)、その他コスト(保管費用など)、分配時の配当課税(頻度による)、リスク(標準偏差)、(正の複利成分としての)信託財産留保額
②継続的に定額でかかるもの ・・・オフセット成分
【例】口座管理手数料(個人型年金など)、(平均取得価格の低下としての)ドルコスト平均法
③一度だけ割合としてかかるもの ・・・オフセット成分
【例】投信購入手数料、信託財産留保額、スプレッド、ETFの取引価格の市場乖離、譲渡課税
④一度だけ定額でかかるもの ・・・オフセット成分
【例】株式売買手数料
なお上記で信託財産留保額もゲイン成分に含めています(プラスのゲインとして)。これもリターンを改善する効果があると考えているので個人的にはケアしています。またシグマにより相乗平均と積立の取得価格も低下すると思いますが、複利と定数の違いで前者の方がクリティカルな問題と認識しています。
さらに、細かい話ですが冒頭のグラフとは別にもう少し定量的に考えてみたいと思います。
購入手数料c%、信託報酬s%/年のファンドa万円をリターンr%/年でn年運用したとき、
購入手数料=ac
信託報酬総額=a(1-c)*(1+r)^n*(1-(1-s)^n)
となります。
ここで購入手数料=信託報酬総額になるときのcは
c=(1+r)^n*(1-(1-s)^n)/(1+(1+r)^n*(1-(1-s)^n))
例えば信託報酬0.5%/年、リターン5%/年で20年間運用する場合の信託報酬総額は
c=20%
の購入手数料に相当することがわかります。重要なのは0.5%/年×20年=10%より大きいという点です(リターンにより元本が増えるため)。これは複利である信託報酬の方が大きくなってしまうので重要という意味になります。
一方、上記をnで解いた場合は近似的に
n=(-s(1-c)+sqrt(s^2*(1-c)^2+4rsc(1-c)))/2rs(1-c)
これも購入手数料3%、信託報酬0.5%/年、リターン5%/年とすると
n=5年
で信託報酬総額が購入手数料に一致することがわかります。重要なのは3%/0.5%/年=6年より早いという点です(リターンにより元本が増えるため)。これも複利である信託報酬の方が早い時間で高額になるので重要という意味になります。
これらを図示すると以下のようになります。
【ゲイン成分とオフセット成分が釣り合う時】
上記の「c」はグラフのオレンジのカーブを、「n」は青とオレンジの交点を求めることに相当します。
オレンジは信託報酬と期待リターンと時間で決まります。ここから購入手数料が自分の投資できる時間内に"信託報酬で"キャンセルできるかどうかの判断ができます。例えば20年なら20%まで、10年なら7%までの購入手数料を許容できることになります(実際はそんなファンド買いませんが)。
だから、海外ETFはリレー投資時に例えば1%程度のコストがかかっても、
信託報酬差=0.6-0.15=0.45%/年(例:STAM/eMAXIS新興株(税別)とVWO)
→1%/0.45%/年=2.2年
これよりも早い時間でペイできる(見込みがある)ことになります。少なくとも2年は長期投資のタイムスケールに対して圧倒的に短いと考えられます。海外ETFリレーの目的は多少の取引手数料や取引価格の乖離があってもゲイン成分の継続コストを小さくし、より長い時間をかけて低コストを享受することだと認識しています(配当分配再投資課税とか考えるとややこしくなるのですがコストだけで考えるとシンプルです)。
【ゲインとオフセットの順序】
他に重要な点はゲインがかかった後にオフセットが乗るかオフセットが乗った後にゲイン倍されるか。オフセット成分の中でも割合なのか定数なのか分かれますが、定数ならゲイン倍された後にかかることで相対的な影響を小さくすることができます。
【まとめ】
資産運用が複利(指数関数)なので、長期投資ではオフセット成分よりもゲイン成分の方が効いてくると考えられます。ゲインとオフセットに分けて考えることは重要だと思います。
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