【①消失リターンの次数依存(r=0)】
【背景】
例えばシグマが20%の時の消失リターンは正確には「-2.02041・・・%」です(標準偏差=20%、相加平均=0における相乗平均を解析的に算出)。しかし、現行のハイリスク・ローリターンの法則「-(1/2)[σ^2]/(1+r)」は一次の近似であるためロストリターンは「-2.00000%」と求められます。
この「0.02041・・・%」のズレは市場変動による減価に比べればゴミみたいなものですが、数学的な背景に対する興味から、近似の次数を上げることで高精度化を図ります。
【考察】
標準偏差σが与えられた場合の相乗平均gと相加平均rとを関連づける一般式は以下のようになると考えられます。
1+g=(1+r)[1-σ^2/(1+r)^2]^(1/2)
ここで右辺第二因子の関数型における高次のテイラー展開は以下のようになります。
(1+x)^n=1+nx+[n(n-1)/2!]x^2+[n(n-1)(n-2)/3!]x^3+[n(n-1)(n-2)(n-3)/4!]x^4+・・・
ゆえに与式は、
1+g=(1+r)[1-(1/2)[σ^2/(1+r)^2]-(1/8)[σ^2/(1+r)^2]^2-(1/16)[σ^2/(1+r)^2]^3-(5/128)[σ^2/(1+r)^2]^4+・・・]
したがって、高次の消失リターンの一般形は、
1+g-(1+r)=-(1/2)[σ^2]/(1+r)-(1/8)[σ^2]^2/(1+r)^3-(1/16)[σ^2]^3/(1+r)^5-(5/128)[σ^2]^4/(1+r)^7+・・・
この近似式をもとに、横軸に標準偏差シグマを取り、冪級数展開の次数別にラインを分けたものが冒頭のプロットになります。σ=30%程度まではほとんど差がわかりませんが、シグマが大きくなるにつれて真の値と近似結果との乖離が大きくなることがわかります。通常のインデックス投資ではほとんどこの領域まで至らないとしても、個別株やレバレッジタイプによってはその限りではないと考えられます。
以下は①の軸を拡大したものです。
【①-2:消失リターンの次数依存(r=0)】
σ=40%程度までであれば、二次の近似(σの4乗のオーダーまで)で充分に真の値をトレース可能であることがわかります。
さらにσ=20%に固定して横軸に次数を取ることで近似精度を確認します。
【②消失リターンの次数依存(σ=20%、r=0)】
このように次数が「2(σ^4のオーダー)」で値がほぼサチることが確認できます。
【近似誤差テーブル】
σ=20%,r=0 |
消失リターン |
誤差(差分) |
真の値 |
-2.02041% |
--- |
一次 |
-2.00000% |
0.02041% |
二次 |
-2.02000% |
0.00041% |
三次 |
-2.02040% |
0.00001% |
四次 |
-2.02041% |
0.00000% |
【まとめ】
標題の「二次の消失リターン」としては以下のように書けます。
「-(1/2)[σ^2]/(1+r)-(1/8)[σ^2]^2/(1+r)^3」
相加平均rを省略すれば、
「-(σ^2)/2-(σ^4)/8」
市場変動とそれによる指数の減価の絶対値に比べれば、ここで議論している誤差はゴミのようなものです。しかし論理的で効果的な対策を取る上で、数学的な背景を固めていくことは、定量的であるべきインデックス投資において重要なプロセスと考えています。
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