「立ち去った投資家が残していく純資産」が信託財産留保額だと認識しています。過去の検証から、資産クラスやファンドによってはリターンと同等の正の複利成分とみなせるものもあると考えてきました。ゆえに個人的には信託財産留保額を重視してファンドを選んできました。
特にeMAXIS JREITは配当込みベンチマークからの乖離率が経費率割り戻し後でプラスになっていました。当時これは必要と思われるコストに対して信託財産留保額が他ファンドより高めだから(0.3%)だと考えました。
その後日本リートクラスは信託財産留保額なしのニッセイJREITが登場しました。現状はSTAM:0.05%、ニッセイ:0%、eMAXIS:0.3%、でそれぞれ分かれているので信託財産留保額の寄与を改めて調べてみます。
Morningstarの基準価額と分配金データから再投資後の累積騰落率差(STAM基準)を求めています。特に今回は実質コストの寄与をキャンセルすることでコスト以外の運用成分のみを抽出したつもりです(騰落率に日割りした実質コストを上乗せしてから差分を取っています)。なお直近の運用報告書の経費率を過去全期間に当てています(STAM:0.432%、ニッセイ:0.383%、eMAXIS:0.458%)。
【ニッセイJREIT設定の2013/06/28から2015/03/31まで】
STAMとeMAXISを残してより過去まで遡ってみます(上とはレンジが異なります)。
【eMAXIS JREIT設定の2009/10/28から2015/03/31まで】
【考察】
残された純資産を残りの口数で割るのですから信託財産留保額が「マイナスのコスト=基準価額の押し上げ」のように効いてくると考えていました。売却の回転数にもよりますが、例えばスタムとeMAXISでは差分の0.3-0.05=0.25%/年程度のオーダーで効果を期待しています。両者の振る舞いからはここ2年は年率0.1%くらい、全体の約5.5年で平均すれば年率0.25%程度で推移しているようです。
(※余談ですがN社はeMAXISのさらに上を行くようです。どちらも信託財産留保額は0.3%なので運用差だと思いますが、eMAXISの時点で配当込みベンチマークを超えるような勢いなので何が起こっているかよくわかりません。運用によるロスが小さいのでしょうか。)
一方ニッセイはコストでも信託財産留保額でも説明できない別のことが起こっていそうです。ニッセイJREITはニッセイグロ株の時の「段差」とは異なる「継続的な乖離」が見られます。運用報告書を見てもニッセイグロ株ほどの銘柄数や現金比率の違いはなさそうに見えるのですが。もしポートフォリオで他と異なる部分があるのなら、日本リートクラスは数が多いわけではないので完全にコピーしてもらえるとよいです。
マザーファンドが異なるため信託財産留保額だけでは説明できない運用の内実がうまく分離できていない部分はあるかも知れません。少なくとも今回の結果から言えることは、「(実質)コストだけでインデックスファンドの実力を判断することは早計である」ということだと考えます。
かといって信託財産留保額が大きくても定量的に期待通りの結果が得られるかと言えばそれもまた確実なことは言えません。nが少ないのはいかんともしがたいものがあります。ゆえに本考察はコスト構造等によってはすべてのファンドに当てはまるわけではないことをご了承願います。
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