以前考察した有効フロンティアはリターンに相加平均を仮定したもので、「シグマによるリターンの消失」を考慮していませんでした。実際の有効フロンティアは消失リターンによりパレート面を浸食されたものになると考えられます。そこでラグランジュの未定乗数法(
→参考文献)を用いて「消滅フロンティア」を導出してみたいと思います。考えやすいように3資産で立式して一般化します。
相乗平均がGとなる無数のポートフォリオのうち、シグマが極小になるものを求めます。
σf^2=W1^2σ1^2+W2^2σ2^2+W3^2σ3^2
+2r12W1W2σ1σ2+2r23W2W3σ2σ3+2r31W3W1σ3σ1 ・・・①
W1+W2+W3=1 ・・・②
W1r1+W2r2+W3r3-(σf^2)/2=G ・・・③
ウェイトの和が100%、相乗平均(=加重相加平均-消失リターン)がG、という制約条件を数学的に定式化したつもりです。
ここで①をf、②の左辺-右辺(=W1+W2+W3-1=0)をg、③の左辺-右辺(=W1r1+W2r2+W3r3-(σf^2)/2-G=0)をhと置いて次の式を定義します。
f'=f-λg-γh (λ,γ≠0)
停留点(微分がゼロになる点)を求めると、
∂f'/∂W1
=2W1σ1^2+2r12W2σ1σ2+2r31W3σ3σ1-λ-γ(r1-(2W1σ1^2+2r12W2σ1σ2+2r31W3σ3σ1)/2)=0
∂f'/∂W2
=2W2σ2^2+2r23W3σ2σ3+2r12W1σ1σ2-λ-γ(r2-(2W2σ2^2+2r23W3σ2σ3+2r12W1σ1σ2)/2)=0
∂f'/∂W3
=2W3σ3^2+2r23W2σ2σ3+2r31W1σ3σ1-λ-γ(r3-(2W3σ3^2+2r23W2σ2σ3+2r31W1σ3σ1)/2)=0
∂f'/∂λ=-(W1+W2+W3-1)=0
∂f'/∂γ=-(W1r1+W2r2+W3r3-(σf^2)/2-G)=0
ここで式を整理します。普段は共分散を相関係数で表していますが見やすくするためrijσiσj=σij(=σji)と置き換えて、
W1σ11+W2σ12+W3σ13=λ/2+(γ/2)*(r1-(W1σ11+W2σ12+W3σ13))
W1σ21+W2σ22+W3σ23=λ/2+(γ/2)*(r2-(W1σ21+W2σ22+W3σ23))
W1σ31+W2σ32+W3σ33=λ/2+(γ/2)*(r3-(W1σ31+W2σ32+W3σ33))
W1+W2+W3=1
W1r1+W2r2+W3r3-(σf^2)/2=G
上の3本の式から規則性が見えます。よって、ここから行列を用いて考えます。
B'とC'から未定乗数λ、γを求めます。
期待しているのは上記で導出した消滅フロンティアが、相加平均で求めた有効フロンティアから消失リターン「(σf^2)/2」を単純に減算したものと一致するかどうかです。ポートフォリオの消失リターンを考えない相加平均、相乗平均のみの有効フロンティアと合わせてそれぞれグラフを描いてみたいと思います。n=3としてパラメータは以下の通りとし、黒い点で表します。ちなみに参考指標として均等配分をグレーの点で表しています。
相加平均:r1=0.10,r2=0.05,r3=0.00
標準偏差:σ1=0.20,σ2=0.10,σ3=0.05
相関係数:r12=0.50,r13=0.00,r23=-0.50
【①相加平均で求めた有効フロンティア】
【②相乗平均で求めた有効フロンティア】
【③解析的に求めた消滅フロンティア】
【④相加平均で求めた有効フロンティアから消失リターン「(σf^2)/2」を減算】
【⑤有効フロンティアのマージ】
【考察】
4つの有効フロンティアを重ね合わせた「マージ」から、「解析的に求めた消滅フロンティア(実線)」と「消失リターンを減算した有効フロンティア(太線)」が一致することが確認できました。
また、Y軸方向の太線と破線(相加平均)との差分が「リスクによるリターンの消失」、太線と極細破線(相乗平均)との差分が「リバランスボーナス」と考えることができます。そして太線が破線と極細破線の間に位置すること、シグマが大きくなるほどパレート面の浸食も大きくなることが確認できます。
※
シグマと相加平均との関係(パレート面の傾き)によってはGを満たすポートフォリオの組み合わせが変化するのではないか、というのが元々の動機です。「σfの極小値を求めているのだからGも自動的に極大になる」という結果が自明なのかはわかりません。最初の未定乗数法の境界条件の設定で違和感を感じなくもないです。
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