おもしろい論文がありましたのでご紹介させていただきたいと思います。「ロバスト性を考慮したウェイト最適化手段」について述べられた論文のようです。
「ロバスト」とは外乱に対して感度が低い、冗長性がある、ポテンシャルが安定、のような意味で使われると認識しています。以下、トピックセンテンスを考えていきたいと思います。
◆数理計画法を用いた資産運用モデル
まず「数理計画法」の定式化と目的関数を確認します。
シグマを固定してリターンを最大化するという思想のようです。ちなみに私の場合はリターンを固定してシグマを最小化するという思想です。余談ですが上と同じように書くと次のようになると思われます。
求めたいもの(有効フロンティア)としてはどちらも同値だと思います。
◆ロバスト最適化の概要
『期待収益率や共分散を各資産の過去の収益率を用いて推定する場合・・・不確実性の高い環境では・・・平均・分散モデルは・・・その解も大きく変化する』『推定値の不確実性を考慮し、保守的に見積もって最適化を行うモデル』
つまりこの論文では「期待収益率や共分散は推定期間に依存するバラツキが大きい」ので、「期待リターンの値を低めに見積もって最適化を行う」ということを「ロバスト」と定義していると考えます。
◆不確実性集合の決定、平均・分散モデルとの関係
①「箱型」の集合
ここで「低め」の程度を表すパラメータとしてδが出てきます。これは「標準誤差の何シグマ分か」という確率的な定量性を表す指標のようです。この例ではリターンのマージンとして2σの確率における36年後の標準誤差が想定されています。
②「楕円型」の集合
『通常の期待収益率の項に不確実性のペナルティ関数が追加された形で表現されており,パラメータは不確実性の回避度を表しているとみなすことができる』
ルートは標準偏差、δの中にもσが出てきますので、この「ペナルティ関数」の次元はシグマの自乗(=分散)であり「消失リターン(σ^2/2)」と同等であることが分かります。時間Tの有無で標準誤差の考え方か相加相乗平均の考え方かの違いはあると思いますが。
「箱型」と「楕円型」の違いは個々の要素の期待リターンから個別に標準誤差を減算して最適化するか、合成後のリターンから合成後のリスクを減算して最適化するかの順序の違いだと思います。つまり後者は相関の効果を含めることで「リバランスボーナス」を考慮していると言えると思います(だから角が丸くなるイメージ)。
◆ポートフォリオ特性、パフォーマンス分析
数値計算の結果を拝借して以下のようなプロットを描いてみたいと思います。
【均等配分のロバスト性】
「不確実性を考慮しない」「箱型」「楕円型」の平均値をセンター(マゼンタ)に、最大最小をエラーバー(黒)として、等配分(青)の位置をプロットしたものです。
このように等配分は平均的に中心付近に位置することが分かります。個人的にはこのような「外乱に対する変動の小ささ」「平均値を取る特性」がロバスト性であり、等配分の合理性の一つと考えています。(論文中の2008年10月のような特定の期間だけを見ればわるいところもあると思いますが、均等以外は過去36ヶ月の推移からウェイトを最適化した結果です。)
【考察】
この論文の期待リターン(ri)は相加平均を想定していると考えられますので、消失リターンの考え方と統合するにはロバスト項に消失リターン項を追加する形で目的関数の定式化を行えばよいと考えられます。
どちらも「σ^2」という次元が等しくなっています。ただし係数が異なります。相加相乗平均間の関係においては「1/2」、この論文におけるロバスト項は確率シグマ(信頼区間)と時間方向の合成リスク低減(∝1/√n)が係数になっています。
【まとめ】
ロバスト性の考慮は設計では一般的だと思います。この論文のように所定のバラツキを想定してマージンをもって最適化することや、ポテンシャルの極小(極大)付近の安定した領域を取りうるよう調整することが方法として考えられます。あるいは遺伝的アルゴリズムのような最適化手法もあると思います。
本来は品質工学における要因効果図のようなものでロバスト性を議論すべきかと思いますが、今回は「設定値にマージンを設ける」「結果に対するバラツキの抑制」をロバスト性と定義し考察しました。
冒頭のHND選手の言う通りインデックス投資は時価総額比率だけに囚われず、この論文のような「ロバスト的平均・分散モデル」や「均等配分」に代表される統計ポートフォリオの両方を駆使して進化していくことが望ましいと考えます。
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