私の思っていることに近い記事・資料を見つけました。重要なことが記載されていると思いますので引用しながら考えてみます。
◆市場ボラティリティの増大
『要因の一つは、海外リスクに振り回される投資家心理のもろさだ。中国経済の減速懸念や原油安に伴う産油国の財政悪化、米国の利上げを巡る不透明感、欧州金融機関の経営不安など、リスクが台頭するたびに投資家が値下がりを恐れて一斉に株式を売る。反対に、不安が和らぐと急いで買い戻すという動きを繰り返している。』
・・・心理学で動いている時点で「市場に合理性など無い」と昔から思っています。金融関係でよくある「市場の合理性」「合理的な市場」って何なんですかね。
◆レバレッジETFの興盛
『代表的なものは日経平均株価の2倍の値動きをする「日経平均レバレッジ・インデックス連動型上場投資信託」で、売買代金は連日、全銘柄の上位に位置する。15日の売買代金は約2351億円と、2位のトヨタ自動車(1102億円)株に倍以上の差を付けた。』
【とある日の売買代金上位(SBI証券より)】
ニッセイ基礎研のレポートにも「日経平均レバレッジETFの売買代金の推移」のグラフがあり、近年では月に5兆円に迫る売買量があるようです。
このようなレバレッジ全盛の時代に、前々から「レバレッジ型はインデックスのシグマを増大させるのではないか」という懸念は持っていました(シグマが増えると相乗平均が低下するという弊害があるため)。しかし、これまでは「レバレッジは先物利用なので現物のインデックスにはおそらく関係ないだろう」と思っていました。
◆レバレッジETFの仕組み
『これほど人気となった日経レバの基本的な仕組みは極めてシンプルで、運用会社は日々の取引終了時点で投信残高(純資産額)の2倍に相当する日経平均先物の買いポジションを保有する。例えば純資産が100億円なら想定元本が約200億円となるように先物の保有枚数を調整する。こうして翌営業日の値動きが日経平均の約2倍となるようにしている。』
『つまり、レバレッジ型ETFは「上がったら買い、下がったら売る」という順ばり戦略を自動的に実践している。順ばり戦略は株価が一本調子に動くときは有効だ。極端な例だが、株価が毎日上昇するなら日々買い増しすればより大きな収益を得ることができるし、仮に毎日下落するなら日々損切りすれば最終的な損失は小さく済む。』
指数のa倍に追従させるために後手後手の取引になることで、相乗平均の「減価」や「加速」が生じるという考え方もあるようです。
◆レバレッジ/インバース・インデックスの変動特性の定式化
上記は仕組み上の売買特性によるものですが、個人的にはレバレッジ型の減価は「ハイリスク・ローリターンの法則」による帰結、加速は「エクスポネンシャル(複利運用)」による帰結と考えています。以下に定式化します(g:相乗平均、r:相加平均、σ:標準偏差、a:レバレッジ、n:時間)。
【減価の定式化(プラスマイナスの繰り返し→標準偏差に反映)】
→相乗平均はゲインをかける前のa倍ではなく消失リターンがa倍された相乗平均のa倍となることが「減価」として観測される。
【加速の定式化(一方向に動く→相加平均(=シグマゼロの相乗平均)に反映)】
→資産価値は二次以降にかけられたゲインによりa倍以上となることが「加速」として観測される(aとrの符号が等しいとき)。
相乗平均は近似的に「シグマ(標準偏差)の自乗(=分散)」に比例して低下し、資産価値は相加平均に指数関数的に比例して増減します。レバレッジはシグマや相加平均をゲイン倍するものであるため、その増幅されたシグマや相加平均により減価や加速が生じると考えています。
◆レバレッジ型が指数変動に与える懸念
『さらに、値動きを増幅させているとみられるのが、株価指数の数倍の値動きをする「レバレッジ型」と呼ばれる上場投資信託だ。投資家が同投信を買うとさまざまな株価指数を構成する銘柄が買われ、同投信を売ると構成銘柄が売られるため、株価に影響する。』
『同投信は、日経平均が10%上がれば20%上がり、逆に10%下がれば20%下がるように設計されているため、通常の投信より投機性が高く、素早い売り買いの判断が求められるので、上昇局面では買いが、下落局面では売りが急速に膨らみやすい特徴がある。』
引用元の指摘のようにレバレッジ型が現物指数のシグマ(ボラティリティ)に影響を与えていることが事実だとすると、市場とインデックス投資双方にとって由々しき事態だと思います。
なぜなら、「合理的なはずの投資家が自ら市場の価格形成を歪め、シグマを増大させ、相乗平均リターンを低下させている」というかねてからの自己矛盾が懸念から現実になると考えられるからです。
【短周期タップのランニングシグマとランニング消失リターン】
「ニッセイ日経225インデックス」の基準価額変動における20日(約1ヶ月)周期のローリングシグマの年率換算(×√240)と、それによって発生する相乗平均リターンの減価「-(σ^2)/2」を横軸時間としてプロットしています。
今回はシグマを「消失リターン」の次元に置き換えることでインデックス長期投資に与える影響を見える化しました。このようにシグマの増大はインデックス投資にとって「シグマで相乗平均が削られることで、ただでさえ悪いS/Nがさらに悪化する」という死活問題になります。
過去のリーマンは別格として、レバレッジ型が増えてきたここ数年は短期的な変動が多いように見えなくもないです。しかし有意差を議論できるような統計でもないのが実状です。
◆先物指数は現物指数のシグマに影響を与えるのか
『また、人気が殺到して株価指数先物の売買枚数が多くなったため、先物市場に及ぼす影響が大きいとして、今年10月から日経レバを含む3つのETFについて運用会社が新規設定を一時停止している。』
【レバレッジ/インバースETFのカイリ率の推移(Morningstar Japanより)】
月別の単純平均ですが、新規設定を停止したという2015年10月後にカイリが大きくなっている傾向はあるようです。しかし、これはあくまで先物利用としての基準価額と市場価格との連動性の話です。
「先物の売買増→先物指数のシグマ増→現物指数のシグマ増」という図式が成り立つかは、今のところ少なくとも私にはデータがなく判断ができません。あくまで懸念止まりです。
◆まとめ
本来変動で勝負するものではないインデックス長期投資にとって、その変動を増幅するように使われて、指数の特性(シグマ、消失リターン)に悪影響があるのではないかというレバレッジ型の懸念が、今まさに実体化しつつあるのでしょうか。
この懸念が杞憂であることを願います。
(関連記事)