ポンチ絵シリーズ第二弾は「消失リターン」です。上の画にラベルを付けると以下のようになります。
青い線は初期値を1として×1.05(+5%)、×0.95(-5%)を交互に掛け算したもの、赤い線は同じく×1.2(+20%)、×0.8(-20%)としたものです。
例えば後者は+20%と-20%なので(相加)平均はゼロです。にもかかわらずグラフは右下がりに見えます。つまり掛け算で積み重なった時の(相乗)平均はゼロではなくアンダーになります(-20%の後に元に戻るためには+25%が必要だから)。これが「リスクによるリターンの消失」であると考えています。
インデックスが積(複利=エクスポネンシャル)であることは資産形成の加速という意味で好ましいことですが、リスクとリターンの関係においてはそれが弊害となると言えます。積であるが故に確率分布も"対数"正規分布になりますし、相加平均と相乗平均に乖離が生じます。
上のプロットの統計量は以下のようになります。
|
①相加平均(r) |
②標準偏差(σ) |
③相乗平均(g) |
④「r-(σ^2)/2」 |
±5% |
0 |
5% |
-0.125% |
-0.125% |
±20% |
0 |
20% |
-2.020% |
-2.000% |
③と④に多少ズレが生じるのは近似誤差だと考えています。
この「消失リターン」について「インデックスの倒し方」ライクに過去記事をいくつか復習しておきたいと思います。
◆数学的な考察
個人的にはこの事実を相対性理論の「質量とエネルギーの等価性」ライクに「リスクとリターンの等価性」と捉えています。
この式のおもしろいところは分散(variance)とリターンを同一次元とみなしていることと、時間に依存しない(キャンセルされる)という点です。リバランスボーナスはこの式をポートフォリオの合成リスクに適用できることをリターンの視点から再構築したものです。
導出には近似を使っていますが、実際の指数でだいたい合っていることは以下で確認しています。
◆実績による考察
「ウォール街のランダム・ウォーカー」に出ている図を真似たものです。
分布の形状等から多少の誤差はありますが、相加平均と相乗平均とのズレがσによる計算と一致することがわかります。
そこで「期待リターン」というパラメータに相加相乗のどちらの値を用いるかによって資産価値の確率分布がどう変化するかを確認したのが以下です。
◆確率分布(対数正規分布)による考察
絵を描くと「相加平均でリスクが高い場合」の悲惨さがよくわかります。
なお対数正規分布では相加平均=平均値(期待値)、相乗平均=中央値と認識しています。つまりシグマは対数正規分布の平均値と中央値の橋渡しをするものと言えると考えています。
【まとめ】
各所で見られるリターンの値が相加平均かリスクによる損失を考慮した相乗平均かどうかは注意する必要があると思います。
この平均値と中央値とのズレから等配分の合理性も導かれますので、「リスクによるリターンの消失」は資産形成において極めて重要な考え方だと思います。
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