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インデックス・ドライバー

時価加重と「リスクによるリターンの消失」との矛盾

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時価加重と「リスクによるリターンの消失」との矛盾

前回「時価加重の証明モドキ」においてコストでは合理的な時価加重を正当化するための数学的な導出を考察しました。今回は時価加重に対して「反例」を挙げてみたいと思います。

まず時価加重を効率的とする「資本資産価格モデル(CAPM)」の理屈を考えてみます(「資本資産価格モデル(wikipedia)」を参照します)。

【「CAPMの導出」】

この理屈の趣旨は「収益率が共分散の加重平均に比例する」という前提のもと、これを時価加重で規格化したら、「収益率は市場平均に比例係数(≒市場リスクに対する超過リスク)を掛けたものになる」ということだと思います。

ウェイトが時価であるときの共分散とリターンとの関係を求めているだけで、微分などによるシグマ最小やSR(リターン/リスク)最大といった極値系の落としどころは無さそうです。前提をもとに仮定を求めている感じで結論(目的関数)が無いような気がするのですが。時価とボラティリティの関係もよくわかりません。統計的な思想との違いは、リターンRを未知数として時価加重ありきで定式化しようとするか、リターンRが既知でウェイトを未知数として定式化しようとするかの違いかと思います。

気になるのは「シグマ(共分散)が大きいほどリターンが高い」ということを前提としている部分です。

E[Ri]∝Σσikφk (rf=0とする)

この理屈に反例を挙げるなら、「シグマによるリターンの消失」だと思います。相加平均をr、相乗平均をgとすると両者の間には、

g=r-(σ^2)/2

シグマが大きいほど相乗平均リターンは低下します。「シグマによるリターンの消失」は複利(対数正規分布)に付いてくる概念であり数学による裏付けが存在するため否定しようがないと思います(「シグマで失われるリターン」)。この時点で「CAPM」は数学・統計に反していると考えられます。またシグマは相加相乗平均の相対関係を記述するだけでリターンの「絶対値」との関連は無いと思っています。

特に「ベータ」の式は共分散(相関)がマイナスの時はリターンがマイナスになることを言っています(市場平均がプラスの時)。また共分散(相関)がゼロの時はリターンもゼロになることになります。この点についてグラフで考えてみます。

【市場平均に対する共分散とリターンの関係図】

「消失リターンのポンチ絵」を改造したものです。青の±10%を市場平均、相加平均を5%として変動率にゲインを掛けています。これらの変動を数値化すると以下のようになります。

【市場平均に対する共分散とリターンのテーブル】※カッコ内は「β×市場平均」
±10%(市場平均) ±20% ±-10% ±0%
分散 0.01 0.04 0.01 0.00
共分散 0.01 0.02 -0.01 0.00
相関係数 1.00 1.00 -1.00 0.00
β 1.00 2.00 -1.00 0.00
相加平均 5.00%
(5.00%)
5.00%
(10.00%)
5.00%
(-5.00%)
5.00%
(0.00%)
相乗平均 4.52%
(4.52%)
3.08%
(9.05%)
4.52%
(-4.52%)
5.00%
(0.00%)
標準偏差 10.00% 20.00% 10.00% 0.00%












市場平均(±10%)と位相が逆(±-10%)の場合、共分散がマイナスになりますが相乗平均は市場平均をマイナスにしたものではなく同等になります。また±0%のように変動がゼロ(共分散=相関がゼロ)の場合はむしろ相乗平均は市場平均より高くなります。一方、市場平均の2倍変動した±20%は市場に対して相乗平均が2倍にはならず、むしろ喪失しています。

「CAPM」の理屈が成り立つならリスクを低減させるために相関をマイナスにするとリターンが低下してしまいます。「相関の小さい資産を組み合わせる」という分散投資の理論(「誤差伝搬法則」)に真っ向から矛盾するものです。

【リスクを取ってもリターンは上がらないどころか下がるの図】

横軸にシグマ、縦軸に相加平均SR一定時(この例はSR=1/3)の相加平均と相乗平均をプロットしています。

SRが一定なので相加平均はシグマに比例して大きくなりますが、相乗平均はシグマの自乗で効いてくるためとあるシグマから減少に転じます。一次関数と二次関数なので二次のシグマの方が強いことによります。また相乗平均の軌跡は放物線になることがわかります。

このグラフからも「CAPM」の理屈が統計的に矛盾していることが確認できます。

あと「CAPM」で時価加重を効率的とする根拠は以下の「時価とSR最大ウェイトが同値であること」から導かれるようです。

【「市場ポートフォリオと接点ポートフォリオ」】

この前提である「分離定理」というものは接点(傾き最大)ウェイトに対して(一律の)定数を掛けたウェイトもまた接点ウェイトになるとのことです。任意のウェイトがSR最大ウェイトに対して相似で表せるという仮定を比例係数で表現し、ウェイトとして時価比を求めるとその比例係数がキャンセルされて時価がSR最大ウェイトと等価になるという流れと理解しています。

これが仮定できるなら時価に限らず何でも成立すると思われます。時価加重がSR最大ウェイトであることは何も証明されていないように見えます。こちらもSR最大ウェイトが時価である時の相対比を求めているだけで、微分などを用いた極値系の落としどころは無さそうです。前提をもとに仮定を求めている感じで内容が無いような気がするのですが。

上記の相乗平均の喪失により「CAPM」は成立していないと考えられるため、時価加重が「接点ポートフォリオ」となることも成立しないと考えられますが、そもそもこの「分離定理」という理屈も「シグマによるリターンの消失」を考慮すると成立しないのではないかと考えています。

【「分離定理」が成り立っていないと思う図(有効フロンティア)】

均等配分の合理性」の時に考察した条件、資産1(σ1=20%、r1=7%、g1=5%)、資産2(σ2=20%、r2=4%、g2=2%)において相関係数ゼロの有効フロンティア(相乗平均)を青でプロットしています。さらに前記有効フロンティアの各点を非リスク資産(σ3=0%、r3=0%、g3=0%)で均等配分(上記のγ=0.5)した時の有効フロンティア(相乗平均)をマゼンタでプロットしています。

この時の接点の傾き(SR)が最大となる点について横軸を資産1のウェイトとしてプロットしてみます。

【「分離定理」が成り立っていないと思う図(相乗平均SR)】

とある効率的フロンティア(「バニシング・フロンティア」で求めたシグマによるリターンの消失込みのライン)に非リスク資産を加えてリスク資産の寄与率を例えば50%にすると、傾き最大ウェイト(ピーク)は微妙にシフトしています。つまり非リスク資産の割合を増やすと消失リターン(リバランスボーナス)により接点の位置(ウェイト、相乗平均)が変化することから「分離定理」は成立していないと思われます。ゆえに時価加重が「接点ポートフォリオ」という理屈も崩れると考えられます。

なおリターン(SR)がシグマを考慮しない相加平均であれば傾き最大ウェイトはシフトせず、「分離定理」に矛盾はないと思われます。

【「分離定理」が成り立っている場合(相加平均SR)】※二本のラインが重なっている

【結論】
「リターンが共分散の加重平均に(正)比例する」という考え方そのものが「シグマによるリターンの消失」に相容れないものだと考えています。また時価加重ありきで話が進められ、方程式を解き最適解を導くといった数学的な手続きが存在しないように見受けられます。

「シグマによるリターンの消失」を考慮した相乗平均では時価加重(CAPM)は前提から成立しておらず、また相加平均であっても「リターンが共分散の加重平均に(正)比例する」ことの根拠が無いと考えられることから、「時価加重が効率的とはならない」と結論づける他ないと思います。

事の本質は「時価加重(CAPM)の理屈は複利で変化する事象には適用できない」ということではないかと考えています。想定しているのが複利(相乗平均)ではなく単利(相加平均)であれば上記の理屈が成立し、時価加重が効率的となりうるのかも知れません。市場価格が王様であり短期の変動に賭ける証券屋の思考と、ノイズと定量的に向き合い長期の不確定性を低減させようとする統計屋の思考が結論を分けているだけなのだと思います。

個人的には、共分散の加重平均がリターンであるという前提そのものが消失リターンという「数学」に反しており、シグマの増大を推奨するようなウェイトが時価加重であるため、時価加重が非効率なのだと考えています。

少なくともインデックス投資は複利(相乗平均)の世界なのでシグマを増加させようとする時価加重が矛盾するどころか目的・手段として真逆であることは示すことができたと思います。今回の考察の結論として、時価加重の数学的統計的な根拠は乏しく、むしろリスクを取ることを推奨するような投機的なものとして「分散投資」にはそぐわないと考えます。

【余談ヨルダン】
時価加重について「なんで変化率と時価が関係あるんだYO!」と考えてきましたが、期待収益率が分散に比例するという前提を時価ウェイトありきで定式化した金融の論理そのものと理解しました。統計の存在が欠落しているように思いますし、数学的に意味が無いと思います。リスクを取っても効率がよくならないことは過去に確率分布でも考察していますので、時価加重の理屈が統計的にズレていることは反論の余地が無いと思います。

上記の導出も、定性的な定量性と言うか「願望を数学チックに書いたらこうなった」的なものに見えます。「リスクに見合ったリターンがほしい」「リスクを取った分だけ報われるべきだ」という願望は分からなくもないですが、数学の理論や客観性を無視してまで意味付けをしなくてもよいと思います。都合のいい仮定や解釈は全体を揺るがす問題になりうります。この理屈を拠り所とし、多くの指数が時価に依存するインデックス投資が「思考停止」と指摘されるのもやむを得ないと感じます。

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