【①Low Sigma Index Investment】
msci.com/より「MSCI JAPAN」のスタンダード(時価加重)、最小分散(ミニボラ)、高配当(ハイデビ)のLocal/Gross/Monthlyインデックスを引用しています。レンジは1988/05/31-2016/06/30となります。
過去のある時点からの規格化は時代が下るにつれて変分がわかりにくくなります。ゆえに規格化の原点を最後に持ってきたものが以下です。
【②リバース・インデックス】
現在(2016/06/30)を1とした「逆指数」または「逆変化率」のようなものです。過去のほとんどの時点から見て「ミニボラ」と「ハイデビ」は「時価加重」をオーバーしてきたことがわかります。
この継続的なオーバーシュートの要因の一つは、後述するようにミニボラやハイデビの低シグマにより「ロストリターン」を抑制してきたことによるものではないかと考えています。
ところで特定の時期に偏らない変分の見方としてランニングアベレージがあると思います。以下ローリング系は12ヶ月タップの年率換算を用いています。
【③ローリング・リターン】
これだけを見ると時価加重は上がる時は他より高く、下がる時は他より低くなる傾向にあります(それがつまりシグマが大きいということですが)。ただこれだけではとても①のグラフの差を生じているようには見えないのが不思議です。
これを時価加重を基準に差分をとってみます。
【④ローリング・リターンの差分】
リターンの差分をとるとグラフのプラマイの割合(面積)としてパッと見でそれほどミニボラやハイデビが優れているわけでは無さそうに見えなくもない(縦軸が広いので。数値にすると平均的に年率1〜2%程度オーバーしています)。しかしこのプロットはリターンの絶対水準がキャンセルされています。たとえ上がる時により大きく上がっても、下がる時により大きく下がる方がリターンに与える影響が大きいので、時価加重がアンダーになっているのだと思われます。
「リターンの非対称性」を視覚的に定量化できるのが「シグマ(標準偏差)」と「ロストリターン(消失リターン)」という統計量であると考えています。
【⑤ローリング・シグマ】
最小分散(Minimum Volatility)の名に恥じない低シグマっぷりです。また高配当(High Dividend Yield)も時価比率ではありますが必然的にシグマの小さくなる構成であることが推定されます。
【⑥ローリング・ロストリターン】
消失リターンの時系列方向の推移、いわば「ローリング消失リターン」です。ボラティリティによりこれだけのリターンを喪失していることがわかります。ロストリターンはシグマからの換算であるため実質的には⑤と同値であり、変動をリターン(≒コスト)の次元に置き換えて示すのに重宝しています。
このように、相乗平均においてリターン(変化率)のプラスとマイナスは等価ではありません。ゆえに、如何に下落時のダメージを軽減し、ロスを最小限に抑えるかがインデックス運用の要であると考えています。
【⑦インデックス・テーブル】
|
時価加重 |
最小分散 |
高配当 |
シグマ |
19.49% |
15.56% |
17.90% |
ロストリターン |
-1.90% |
-1.21% |
-1.60% |
相乗平均 |
-0.55% |
1.71% |
2.47% |
相加平均 |
1.38% |
2.96% |
4.12% |
相乗平均ー相加平均 |
-1.93% |
-1.25% |
-1.65% |
|
|
|
|
ローリングリターン平均 |
2.20% |
3.40% |
4.37% |
ローリングリターン差分平均 |
0.00% |
1.19% |
2.17% |
ローリングシグマ平均 |
17.57% |
13.83% |
15.92% |
ローリングロストリターン平均 |
-1.70% |
-1.09% |
-1.45% |
このテーブルからは、シグマによる消失リターンだけで一般的なインデックスファンド/ETFのコスト差以上の違いが出ていることがわかります。
【考察】
シグマが運用成果に影響を与えることは数学的に示される事象ですので(参考「シグマで失われるリターン」)、低シグマ投資の応用はインデックス投資にとって有効な手段であると考えられます。また高配当により相加平均を向上させることは資産運用として必然とも思います。
言い換えれば「シグマによるロストリターン」や「配当」も、「コスト」と同等の次元を有していますので、コストという一つの要素だけでなく複数の要素をマージすることでインデックスのドライブ能力を強化していくことが重要と考えます。
相対的に時価加重の効率が低く見えるのは、コストを最優先させる「時価」で放っておくということが「マイナスサムのマネーゲーム」に事前準備なく無抵抗で巻き込まれるということであるからと考えています。限られた地球環境にフリーライドするならば、少しでもロスを抑える取り組みが必要ではないかとも感じます。合理的なインデックス投資は非合理な変動を極力排除して論理的に資産形成を遂行していくのがよいと考えられます。
この世界や我々の生活が数学に支えられている以上、定量性とは切っても切り離せないものだと思います。インデックス投資はコストだけではない、ということが一般的になるとよいです。
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