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一括と積立のあいだに

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一括と積立のあいだに

積み立てロジックシミュレータ(β版)」で失念していたことがあります。このとき一括投資も求めているので、積立投資(ドルコスト平均法)の弊害のひとつとされる収益率の低下を定量化することができます。

演算条件は以下の通りです。

(確率分布乱数)
関数型:ガウシアン80%+ローレンツ関数20%(定義域:r±5σ)
相加平均(月率):0.407%(年率5%)※相乗平均:年率約3.4%
シグマ(月率):4.33%(年率15%)※テイルリスクの重畳により年率約17%
期間:240ヶ月(20年)
試行回数:4096回
※ファンドの保有コストは考えない

【結果】
一括投資と積立投資の分布を確認します。まず「資産総額/元本(=収益率)」の相関プロットを示します。Z軸(カラー)には原点に対する傾きである「積立/一括」を取っています。色のついた線は直線近似、白い線は1:1対応を表します。

◆収益率(資産総額/元本)の相関プロット

分布が1:1対応の白い線をまたいで一括の方にシフトしています。収益率が大きい場合と小さい場合とで「積立/一括」の傾きが1を超えるか超えないかの傾向が異なるようです。

◆資産総額のヒストグラム

資産総額を1dB(デシベル)ごとに分割して求めています。毎月の積立額を1として規格化しています。「Base」と書いた線は元本(240ヶ月=240)です。

この分布は「確率に「織り込まれる」ということ」で考察した時間リスク波動砲のn=20年での断面を切り取ったものと等価と言えます(パラメータは異なります)。波動砲ではわかりにくかった一括と積立との関係が視覚的によりはっきりわかります。

資産総額のピークや中央値は一括の方が大きくなるようです。また分布の幅(バラツキ)は積立の方が狭くなっています。特に収益率の低い部分、資産総額と元本が等価になる領域を境に積立が一括を頻度で逆転しうることがわかります。

◆一括投資と積立投資の収益率の比

「積立/一括」のヒストグラムになります。ここから多くの場合で積立は一括より収益率(資産総額)が小さくなることがわかります。逆に積立が一括を上回る確率もゼロではなく、今回の条件では「約25%(1-0.75)」であることがわかります。

【考察】
上記プロットから主要な数値をまとめます。

◆平均値と中央値
一括 積立 積立/一括
平均値 2.66(+166%) 1.68(+68%) 0.83
中央値 1.96(+96%) 1.49(+49%) 0.74





◆所定値に対する確率分布
確率
1<積立/一括 25%
0.5<積立/一括≦1  60%
積立/一括≦0.5 15%






◆積立マジックマトリクス(象限確率と元本割れ確率)
一括≦1 1<一括 合計
1<積立 5% 74% 80%
積立≦1 14% 6% 20%
合計 20% 80%






期待リターンをプラスに仮定する場合、投資を遅らせる積立投資の収益率は上記0.83のように「平均的に」小さくなることが確認できます。この「ディレイ効果」が平均的に現れてくるというのは、中央値を用いて解析的に解いた「ドルコスト平均法の数学II」や「積立を考慮した場合の複利2倍則」とコンシステントです。

「複利2倍則」等の考察から積立は一括の約半分(時定数の比である72/128=0.56程度)になるという認識だったのですが、バラツキまで考慮すると積立投資による落ち込みは中央値で0.74程度とそこまでは大きくないようです(1を引くか引かないかや時間等のパラメータに依存します)。また積立が一括の半分以下になる「積立/一括≦0.5」も確率的に15%程度存在するようです。

一方でディレイ効果は「必ず」ではなく、指数変動の仕方(経路)によっては積立投資の方が収益率が高くなりうることがわかります(上記「1<積立/一括」の25%)。これは「しぶとい分散投資術」を読みました。」で確認した日本株のパターンとコンシステントです。

この件についてはシグマを考慮した「数学II」でも積立が一括を超える「1<積立/一括」を表現しきれませんでした(必要なシグマが異常に大きくなる)。たとえ期待リターンが正でもとある確率では負を取り得ますし、更にその「バラツキ」だけでは表せない「経路」という概念が必要なのだと思います。

また指数が元に戻っていないのに収益率がプラスになるという「積立マジック」も健在です。これは散布図において一括が1以下かつ積立が1以上の部分に相当し、確率としては約5%になります。

なお、この2x2のマトリクスの「一括≦1」を縦に合計したものが一括投資の元本割れ確率に相当し、同様に「積立≦1」を横に合計したものが積立投資の元本割れ確率になると考えられます。この条件ではそれぞれ約20%であり、一括については「長期投資における元本割れの確率」とコンシステントです。積立における元本割れ確率の定式化はできていませんが、このようにシミュレーションで求めることは可能です。思っていた以上に一括と積立で近い値が出ています。

シグマで失われるリターン」や「リスクを取ってリターンを高めるということ」で考察したように、リスクは複利リターンを消失させるものです。しかし積立投資に対しては「ドルコスト平均法の数学I」でモデル化したように平均取得価格を低下させる作用があると考えていて、この影響が元本割れ確率に見えているのではないかと推測しています。ただし検証はできていません(元本割れ付近の時間リスク曲線は割と傾きが寝ているのでオフセットである取得価格でもそれなりに影響するのかしら、というのが定性的な理解)。

以上は、指数が確率的に爆上げするときは当然一括投資で、日本株のように20年タイムスケールで1/2くらいだと積立投資がよさそう、というのと感覚的にも合っています。定式化のために右上がりの中央値だけを考えると積立は一括に敵わないわけですが、バラツキと経路まで考慮すると一矢報いる可能性があることがsimにより確認できました。

以下は本検討で用いた指数変動の経路の例です。

◆ランダムウォークの例

とある16回分を抽出しています。これを4096回繰り返したものが今回の結果になります。実際の指数は「ランダムウォークのダイナミックレンジについて」で確認したような経路を辿ってきました。しかしそれが今後どうなるかはわかりません。断言できない未来を議論する上で、モンテカルロシミュレーションを用いて確率的に論じることは理にかなっていると考えます。また積立は対数正規分布の級数(または積分)で表されると思いますが、それを解析的に解こうとすると大変なので乱数simは便利ということもあります。

【まとめ】
今回は「積立のウラ問題メモ」における定性的な表現を定量的に考察することを目標としました。この結果を見ると約75%(100-25)の割合で積立は「絶対悪」ではなく「必要悪」ということなのだと思います。積立は保有コストも一括の半分程度になるわけで。

人生のタイムスケールにおいて投資に回せる時間や資金を用意できる時期は人によって異なりますし、インデックスがどう変化するか予測することは困難です。一括や積立に拘らず必要な人が必要に応じて両者を使い分ければよいと思います。

とは言えこのsimも特定の一条件に過ぎないので、リスク・リターン・時間の水準を振った「II」を制作しようと考えています。

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